百戦錬磨 第一話
―――――――――異能。
それはこの世界に昔から存在する人間に生まれつき宿る、人ならざる力。
世界はこの力を決して良い方向には捉えていない。むしろ、反異能派と呼ばれる異能を否定する派閥もある。
彼らは「異能者は人間ではない」と叫び、それがもはや反異能者を決起させる合言葉となっている。
だが、彼らは羨ましかったのだ。力が欲しかったのだ。だからこそ、力を持って生まれなかった彼らの中でも力を欲した一部の人たちは異能以外の他の方法で力を手に入れた人たちもいた。
それが魔術を操りし、魔術師と呼ばれる者たちだ。彼らは後に魔術派と呼ばれるようになる。
だが、やはり魔術師にすらなれない者たちもいる。そういった者たちは力を手に入れた人たちを羨ましがり、そして、嫉妬する。
結果的に最後に行き着く先は反異能者派と同じく魔術師たちに反発し、そして、結果的に反魔術派と言われる派閥を立ち上げることとなる。
しかし、中には異能・反異能・魔術・反魔術たちのどれにも属さず、普通が一番という者たち、いわゆる事なかれ主義たちの派閥、後に、生粋派と呼ばれるようになる派閥が誕生する。
派閥が出来れば後はもうなし崩しだった。時代が進むにつれてこの五つの派閥による抗争が世界中で頻発するようになる。
そして、ついに十二年前には抗争の中でも最大規模の『第四次派閥大戦』、別名、『第六次世界大戦』とも呼ばれる五つの派閥による世界大戦が勃発した。
開戦当初は内戦、クーデター、抗争、など、自国家内での派閥同士の戦争が主であったが、いつの間にか戦争は各国外に飛び火し、結局、国家間の戦争にまで発展することになる。
全世界中の国々、日本、アメリカ、ドイツ、中国、ロシア、イギリスなども例外ではない。だが、その戦争に端を発したのは“魔物”と呼ばれる未知の生物だった。
この生物が無作為に人を襲ったため、世界中が混乱し、結果的に人々は疑心暗鬼に陥り、戦争が勃発してしまったということだ。
結局、勝敗は着かず、多くの死傷者を出しながらも休戦という形になっただけで派閥同士の小競り合いは未だに世界中で起こっている。
そして、最終的にこの戦争で国というものは半分以上が機能しなくなった。
国の内政、外交権、統治など国としての権限は全てその国の多数派閥が乗っ取るような形となり、そして、日本は異能派が多数を占め、異能派が統治する国家、いわゆる、異能派国家となったのだ。
無論、日本の中には魔術派も反異能派など他の派閥も少数だがいることにはいる。この大戦で決着が着かなかったゆえに先述したように現在も国内、海外問わず抗争はとどまることを知らない。
日本国内も戦争終結当時は国内に残存する他派閥の殲滅のために軍や警察と言ったような組織をも活用したのだが、それでも、殲滅には至らず国内での抗争はなくならなかった。
それに対して日本政府は正式名称“帝国(ていこく)異能力者(いのうりょくしゃ)連合(れんごう)”と呼ばれる戦闘に特化した異能者たちを集めた軍に近い組織、通称“帝連”と天皇家を母体とした旧組織と共同し、新政府を樹立。
帝連は世界でも“最強の異能”とまで称される異能を扱う十二の家柄がその実権を掌握していた組織であり、旧天皇家組織とはかつての天皇家の跡目争いで敗れ、下野した家系の者たちが作り上げた組織である。
日本中の異能者を従え、統合し、使役する帝国異能力者連合と日本の象徴たる天皇家が内政、外交などを指導する新政府、というのが表向きなのだが、実際はその政府に実権を握っているのは帝連であり、天皇家を中心とした旧組織は形骸化し、何の権力も持っていない状態に近いのだ。
だが、帝連は日本の異能派のみを集めて作られた組織であるが、世界に通用するほど強く、大きい組織である。
それほどの大きな政府に対して日本国民は当然のことながら何も言うことが出来るはずがない。
なにせ、その政府を否定するということは形骸化してはいるが、それでも天皇を否定するということに他ならず、そして、その後ろ盾には帝連という組織が付いているのだ。文句があっても言えるはずがない。
多少、強引な手ではあるが、日本に点在する魔術派や反異能派などの派閥の構成員もやはり大半は日本人である。
天皇というものはこの国の“象徴”にも位置づけられている。その自分たちの国の象徴でもある天皇を否定するということは自分たちの国、つまり日本を否定することに他ならない。
国内に点在する他派閥もさすがにそれをする気はなかったのか、新政府の樹立後、日本国内での反発は政府が予測していたよりも小規模で尚且つ、素早く終息した。
海外では日本の異能者を除いた異能派最大の組織“世界(せかい)異能力者(いのうりょくしゃ)統合(とうごう)連盟(れんめい)”通称“統連(とうれん)”が設立され、他にも魔術派では欧州の優秀な十の家柄を母体とした魔術派最大の組織“欧州(おうしゅう)魔術師(まじゅつし)共同(きょうどう)機構(きこう)”通称“欧構(おうこう)”が、生粋派では統連や欧構から抜け出した異能者、魔術師や何の能力も持たない生粋派の人などそれぞれの派閥関係なしに人を集め組織の人間とした“国連”や“聖(リー)王(ガル)騎士団(ガバメント)”など、勢力によって様々な組織が多く設立された。
先に挙げた五つの組織は世界中で知らぬものがいないほど有名ではあるのだが、その五つある派閥の中でも異能派は最も人数が少ない。
そのため異能者たちは世界中で囁かれている七度目の世界大戦、五度目の派閥大戦に備えて、学生時代からも異能者たちを集めて軍事に関する育成・教育する学校をそれぞれの国、地域や都市、町に設立し始めた。
もちろん、統連とは組織が違う帝連も同じく、学校を設立した。
例え、統連と帝連、まったく組織は違っても同じ異能派という派閥である以上、戦争が起これば互いに手を取り会って戦う仲間なのだから。
そして、帝連が国内に設立した学校が異能者(いのうしゃ)育成(いくせい)教育(きょういく)学校(がっこう)、通称、異育(いいく)と呼ばれるものだ。
だが、この学校の設立は異能派としてはいい案だったのかもしれないが、他派閥からすればこの行為は明らかに戦意を見せつけるような行動と捉えられてしまい、他派閥からの批判が相次いだ。
もちろん、異能派に戦意や悪意と言ったものがなかったのか、言われればあったというだろう。批判を受けても一向に学校の設立を中止しない異能派の行為に対して他派閥は猛反発。
これによって一時は平和になっていた世界が再び混沌の様相を見せ始めていた――――――