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ゴーストライター
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百戦錬磨 第一話

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四月十五日 午前四時三十分。
国連北欧方面第一軍コペンハーゲン基地。
周囲は針葉樹林に覆われており、もはや樹海の中に建てられていると言っても過言ではないというほどである。
その樹海の中に建設されているコペンハーゲン基地は国連軍が誇る北欧方面の基地の中では最大規模の軍事基地と言えるもので、かつての大戦では最も活用された基地でもある。
基地の最大収容人数は一万人を超え戦闘機や戦略爆撃機といた類の兵器類の収容数も最大規模であると言える。
だが、その基地は今日、歴史に終焉を刻むことになった。
地面を、いや、地軸がずれたのではないか思わせるほどの大爆発が基地を中心とした一帯で起こったのだ。先ほどまで針葉樹の樹海に悠然と佇ずみ、その威厳と活気を携えていた最大規模の基地はわずかに十秒足らずで灰塵へと成り下がる。国連軍が誇る最大規模の基地が、である。
ともすればその爆発は人類史始まって以来の記録的大爆発だったのではないだろうか。単純な威力を見れば核兵器の方が遥かに高いだろうが、爆発という観点のみで見れば核兵器を凌ぐほどの爆発力だっただろう。
一万人を優に収容できる規模であり、さらには演習場に戦闘機や戦車といった兵器を収容する格納庫など様々なものを合わせてもかなりの大きさだった基地が何も残っていないのである。
残っているのは基地かあるいは兵器の残骸と人だったもの。そして、巨大なクレーター。月にすらこの規模のクレーターは存在しないだろう。
爆風の影響で周囲にあった樹海ももはや原型をとどめているものは少ない。だが、少なからず人の気配がある、が、それももはや長くないだろう。あれほどの爆発だ。
生きていたとしてもそれは確実に致命傷を与えている。虫の息というべきだろうか。少なくとも後十分も生きられない。
まさに生存者のいない―――――――言い換えれば地獄。
炎が至る所に燻っており、各所からうめき声が聞こえる。
その地獄の中に虚空を見上げ、立ち尽くす人物が一人。どこからどうみてもその人物は怪我をしているようには見えない。生き残り――――にしては爆風の煽りを受けた様子もない。ともすれば、考えられるのはこの人物が爆発を越した―――――ということである。
しかし、たった一人の人間が起こせるのだろうか、あれほどの規模の爆発を。もし、仮に本当にあれほどの爆発を起こせるのだとするならばそれはきっと―――――人間じゃない。
だから、その人物はきっと人間じゃない。
外套で全身を隠し、さらにはその外套に備え付けられているフードを被っているので顔も見えないが、それは暗に自分が犯人です、と言っているようにも感じられる。
そして、虫の息で生きていた彼らは気付く。そのフードの人物の正体に。
気付いた時、彼らの体は今まで以上に震え始める。死ぬ寸前の人間がここまで震えるものなのか、と思ってしまうほどに。だが、それ以上に驚くべきは彼らの瞳は死の恐怖よりも畏怖によって支配されていることだ。
死ぬ寸前で死の恐怖に怯える者は少なくない。だが、死ぬ寸前で畏怖に支配される者が一体世界にどれほどいるのだろうか。彼らの視線は動くことなくフードの人間へ注がれる。
外套の後ろに刺繍されている十二本の刀剣。それらは見事な円を描き、切っ先を円の中心で交差している。さらに十二本の刀剣には植物の蔦が縦横無尽に巻き付き、味方によっては、それはまるで、決して逃れられない鎖のようだった。そして、蔦が縦横無尽に巻き付いたそれら十二本の刀剣切っ先が交差している円の中心に漢数字の“七”が刺繍されていた。
それは、紋章だった。ある組織の復活を示す、紋章だった。
決して逃れることのできない幾つもの蔦によって巻きつかれている十二本の刀剣。それは一体、何を意味しているのか――――。
「――――神従者」
どこかの誰かが呟いた。戦争によって滅んだ組織を束ねていた者たちの総称を。その声を聴いたのかフードの中でその人物がにやりと不敵な笑みを浮かべる。
そして、その人物は何の前触れもなく話し始めた。

「―――――この世界に救いはなく、あるのはただ、絶望のみ」

まるで歌っているかのように、まるで死の淵にいる兵士たちに語りかけるように手を大きく広げて言葉を続ける。

「―――――ならば人は何に祈る?」

優しい口調で語られるそれは子供に聞かせる子守唄のように慈愛が籠っていた。

「―――――多くの者は救いを求め、祈る。救いがなければ何に祈る?」

まるで問いかけるように、ゆっくりと間を置き、そろそろ答え合わせだと言わんばかりに再びその歌を続ける。

「――――死に祈ろう――――
      ――――救いがないこの世界で、我らは死に祈ろう――――」

その時、フードが風に揺られて捲りあがる。
―――男だった。一人の男が死を、歌っていた。

「―――残酷で、無慈悲で、不平等なこの世界――――
     ―――祈りたければ祈るがいい――――
         ―――だがこの世界に救いはない――――
                   ―――故に祈るのなら――――
                        ―――死に祈れ――――」

生き残っている兵士たちには一体、男がどういった心境でこの言葉を発しているのか理解することができない。
だが、男にとって兵士たちが理解しているか、していないかなどは問題にならなかった。

「――――我らは神への反逆者――――
     ――――今こそ、神への復讐を――――」

瞬間、男の立っている場所に巨大な赤い円形の魔法陣が出現し、そして、生き残っていた兵士たちの意識はそこで途絶えた。