銀の糸
「打ち掛けの納期が間に合いそうにないんです。仕事します」
「見物させて下さい」
「どうぞ」
赤地の布に御所車を刺繍していた。
右の足を左右に動かし、針を左右に振っている。
丸い枠にはまった布の部分を、両手で動かしながら、まるで絵を描くように銀の糸が御所車の車輪を縫って行った。
「上手いもんですね」
「同じ柄15年もやっていますから・・・」
「お邪魔ですね。お暇なとき電話下さい」
「冷蔵庫から冷たいもの持っていって下さい」
「飲んできましたから・・・」
「気持ちなんです」
「お忙しそうですから」
五月女はミシンを止めた。
「はい、どうぞ」
100パーセントジュースを渡してくれた。