銀の糸
車に戻りジュースのプルタブを引き上げようとすると、底に先程の銀の糸が絡んでいた。
原口は払いのけようとしたが、思い直してティシュに包んだ。
家に帰り、座卓の上で開いてみると、銀の糸が指輪のように丸くなっていた。
それから半年が過ぎた。
街で隊列を組んだオートバイを見たとき、ジャンバーに見覚えのある虎と鷹の刺繍を見た。
結婚式に招待された時、花嫁がお色直しに着たのは御所車の打ちかけであった。
そのたびに五月女を思いだした。
原口の方から五月女に電話する勇気は無かった。
五月女は原口の電話を待っていたがいつになってもかかっては来なかった。
二人のお見合いは幻に終わりそうであった。