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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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銀の糸

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原口は客が帰ってから、今どき刺繍を仕事にしている人がいるのかと驚いた。
A市は過っては織物の町、そしてトリコットでは日本一であった。
その頃は縫製と刺繍のミシンの音はどこからでも聞こえていた。
型紙職人もかなりいた。
次第に織物が廃れ、トリコットも廃れた。
ミシンの夕立が降っているような音も聞こえなくなった。
今日の客は誰から刺繍を教わったのかと不思議に思った。
職業別の電話帳を見てもA市には刺繍では一軒も載っていなかった。
原口は早速道具を捜した。
直ぐ見つけたがナイフは錆びていた。幅5ミリほどの金属の板に刃がついている。
研ぐのも直ぐであった。
茶色の型紙に下絵を写した。
いつの間にか夕食の時間であった。
原口は型紙職人を辞めたとき、失業保険で生活していた。
結婚して3年経っていた。
子供は無く妻の方から別れたいと言い出した。
慰謝料も何もなしで別れてくれた。
その妻の優しさを忘れる事が出来なかった。
全てが自分の責任であると原口は思っていた。
知人の紹介で工場の警備員になった。
主な仕事は門のところで訪問者の受け付けであった。守衛の様であるが、夜は建物の内外の警備もあった。
日勤、夜勤と有り生活は不規則であったから、恋人も出来ないし、結婚する気持ちも無かった。
作品名:銀の糸 作家名:吉葉ひろし