充溢 第一部 第十八話
第18話・7/8
騎士団の館を離れる時には、有頂天になっていた。まさに私の見込んだどおりの男! 見つけ出した私の鼻も高い。
シザーリオの動きは、神秘的であった。相手が納得づくで投げられているように見える様は、芝居の殺陣を連想させるほどだった。相手も何故負けたのか分からないと言い出す始末。
相手が自滅しただけだと謙遜する。余計に気に入った。しかし、シザーリオの表情は硬いままだ。
彼は言う、好きになれそうにないと。しかし、それは、連中がシザーリオを侮っていたからだ。実際は、気のいい奴らだと説得するが、表情は浮かばない。
今回の一件で、連中はシザーリオの力を認めたというのに、残念な話だ。これは、喜ぶべき事なのに。
それとも、私が浮かれすぎているかな――彼に疲れの表情が見える。
広場に出ると一人の少女が視線を送っているのが見える。あれは、噂に聞く彼のいい人ではないか?
シザーリオに問いかけると、彼は驚愕のあまり、声を強張らせて、点々と名前を呼ぶ。
スィーナーという名の少女は、満面の笑みを湛えて歩いてくる。可愛い恋人だ。
シザーリオを冷やかすと、彼女はそれを否定する。なるほど、影で彼に視線を送るライバルも多かろう。大っぴらには言いたくないのだ。
彼は、彼女を"友達"だと紹介する。言葉もぎこちない。真面目な男だから、色恋事になると体を失うのだ。
「それにしても、可愛いらしい娘さんだ。美男美女、理想的なカップルだ。未来が楽しみだね」
意地悪な言い方になってしまっただろうか、二人の笑みが硬い。
彼は、問いかける。どんな用件かと。何かと突っ張ったような口の利き方。私に気を遣っているのか? しかし、彼女は臆さずこんな事を言ってのける。
「シザーリオ、そんな他人行儀な言い方しなくてもいいじゃない――夕食の買い物をしてたら、見かけただけの事よ」
なかなか妬けることを言う女の人だ。見た目以上に大人なのだろう。
若い二人が仲良くしているのに、この年寄りがその邪魔をするのはみっともない。
今日の所は、さっさと退散しよう。
作品名:充溢 第一部 第十八話 作家名: