舞うが如く 第三章 16~17
「沖田どのは?」
琴の問いかけに、
手負いの藤堂が「二階にいる」とだけ答えました。
小太刀を抜いた琴が、土間を駆け抜け、
正面の階段を駆け上がりました。
土方隊の隊士たちも、一斉に池田屋を包囲しました。
一階の奥の座敷では、
近藤が危ういところを何度もくぐりぬけながら、
孤軍のままで応戦中でした。
「総司!」
琴が目にしたのは、
敵の上に倒れ伏したままの沖田の姿でした。
頭上に剣を振りかざした正面の浪士に向かって、
琴が一直線に突進します。
鈍い衝撃が、琴の両手を痺れさせました。
「剣で斬るな、身体ごと突け!」
沖田の声が飛びました。
振り返ろうとした琴の斜め正面で、
さきほどの敵が、太刀を鋭く突きたててきました。
あらためて握りしめた小太刀を、
琴が身体もろとも、突き放ちました。
鮮血が飛び散る中、敵が襖もろとも階下へ転落していきました。
残ったふたりは手すりを越えると、
乱闘が続く中庭へ飛び降りてしまいました。
「大丈夫ですか。」
駆け寄った琴が、
血に染まった沖田の全身を丹念に見回しながら、
その耳元に、唇を寄せました。
「琴さんは、
良い匂いがいたしまする。
大事はありません、
無傷にござる。
おおかた、・・ただの『かくらん」です。」
琴の肩を借りて、沖田が立ち上がりました。
駆けつけた土方隊の加勢を得て、
戦局は、圧倒的に新撰組のものになり始めました。
作品名:舞うが如く 第三章 16~17 作家名:落合順平