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舞うが如く 第三章 10~12

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舞うが如く 第三章
(11)深夜の粛清


 文久3年(1863)年9月18日、
夕刻より降り始めた雨は、深夜になってもやむことはなく、
雨足はいっそう激しさを増しました。


 泥酔状態で壬生の八木邸に戻った、新選組筆頭局長である芹沢鴨は、
芹沢の腹心で副長助勤をつとめる平山五郎とともに、
愛妾のお梅、桔梗屋の芸妓・吉栄、さらにもと水戸藩士の
平間重助などと、再び宴席を設けます。



 島原の角屋から共に戻ってきた土方も
この酒宴に同席しました。
深夜に及んでようやく酒宴がお開きとなり
土方は降りしきる雨の中、八木邸から前川邸へと引き上げました。


 本玄関につながる奥の座敷で、
芹沢はお梅とともに床につきました。
縁側に近い方で二人は就寝し、その間にはついたてが置かれ、
その向こう側には、平山五郎と情婦である桔梗屋の吉栄が床につきました。
 平間重助と平間の愛妾、輪違屋の糸里も加わりましたが、
この二人は、少し離れた玄関の右手の部屋で、ともに就寝をします。



 それぞれが寝静まったと思われる未明のことでした。
抜刀した男達数人が、わらじばきのまま玄関から
屋敷内へと侵入します。



 すぐ右手の部屋にいたはずの、平間重助の姿は見えず、
愛人の糸里は、たまたま厠へ行っていたため無傷となります。
奥の座敷へとすすんだ刺客たちは、
眠っていた平山五郎とその愛人・吉栄を突き刺してしまい、
二人はその場で絶命してしまいます。



 さらに刺客たちは、
ついたてもろとも、芹沢を刺し貫きます。
芹沢は、刺客に斬られながらも脇差しで応戦して、
襖を蹴破って、縁側にまで飛び出しました。


 そこから隣の部屋に駆け込もうとした時に、
八木邸の息子が使っていた学問机につまずいて、転倒してしまいました。
そこを上から襖をかぶせられて、
刺客達に滅多突きにされてしまいます。


 もともと武家屋敷では、
刃物が振り回せないように天井は低く張られ、
鴨居も低く作ることが防御のための基本になっています。
そのために、部屋の中での戦闘は、左右になぎ払うか、
突きがもっとも有効となり
慣れた者ほど、一切刃物を振りまわしません。



 ほんのひとときの戦闘で、
新撰組の初代筆頭局長、芹沢鴨が絶命しました。
最後の元水戸藩士・、平山五郎も命を落とし、
それぞれの愛人、お梅と吉栄も巻き添えで命を落としまいました。


 使命を果たした刺客たちは、
それ以上の危害を加えることもなく、家人たちには
無言のまま、足早に屋敷を後にしました。




 翌朝、屯所が置かれている前川邸からは
近藤が検視に乗り込んできました。
土方と共に屋敷内を見聞した結果、未明の襲撃は、
過激派の長州藩士の仕業と、結論が出されます。

 この4日後に、芹沢と平山の葬儀が神式にのっとって、
盛大に執り行われ、二人は壬生寺に手厚く埋葬されました。