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舞うが如く 第三章 10~12

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 「雨ですね。」
 
 階下に降り立つと、
男衆が、屋号入りの番傘を二つ差し出してきました
それぞれに受け取ると、二人が揃って戸口に立ち並びます。
遠くに雷鳴も聞こえ、時々縦に稲妻が走る雨空でした。



 琴が勢いよく番傘を拡げました。
つられた沖田も傘を広げると、すこし裾をはおって往来へ出ます。
周囲を高い板塀で仕切っているのが、島原遊郭の造りです
東大門に向かって、一直線の広い通りが伸び、
その左右には、揚屋が隙間も見せずに居並んでいます。
雨粒の跳ねる往来では、うろたえた客や遊女たちが
右に左にと逃げ惑っていました。



 東大門を出ると、周囲は町家の通りに変わります
遊郭の明るさは消え、道筋にはまったく人影が見えません
足元の水たまりさえも、ままならないほどに
暗くなってしまいました。



 壬生の屯所まで、あと半道ほどという辺りでのことでした。
予告もなしに突然あたりが明るくなった瞬間に、
大音響の雷鳴がとどろきました。
短い悲鳴と共に、琴が傘を手放してしまいます。
飛びのいたその身体を、沖田がしっかりと抱きとめました。


 沖田の胸元で、顔をあげた琴が何か言おうとしたその瞬間に、
さきほどよりも激しい雷鳴が轟き渡ります。
周囲一帯に、閃光が真っ白に炸裂をしました。


琴の肩は、まだ小刻みに震えています。

 「ほほう、
 上州は雷の国と聞いてはいたが、
 苦手にあるか。
 天狗の使い手にも、
 恐いものがあったとは・・・」




 「いえ、酔いましたゆえ、」


 沖田が転がっている琴の番笠を拾い挙げました。
なにもいわずその傘をたたむと、
自らの傘を半分ほど琴の頭上に傾けます。
やがて、琴の肩を抱きよせてから、
静かに沖田が歩き始めました。