充溢 第一部 第十二話
第12話・4/7
ポーシャの屋敷には、下ろし立ての洋服が次々に届き、ポーシャもうんざりしているかと思いきや、全くそんな事はなかった。
「あの男もセンスがあるな。私の見込んだだけのことはある」
肘に手を当て、アントーニオのように、自分を観察する。
「貴方の差金ですか!」
「儂が言って動く男じゃない。
ただ――動くとは思っていたがな」
含み笑いを溢しながら、歩み寄る。
「もう!」
救いの手を差し伸べるかとネリッサの表情を伺うと満面の笑みだ。ああ、駄目だこいつら。
散々いじられた。ネリッサには着せ替え人形にさせられた。
「ところで、あの元修道院には次はいつ行く?」
着替えている後ろで、ポーシャが気軽に問いかける。
「明日には出かけようかと……って、まさか!」
あっさり口を割ってしまった。ポーシャが好奇心だけで何かを問いかけるなんて、あるはずないじゃないか。
「いいじゃないか、男手があった方が、仕事も早く済むだろう」
何かを企んでいる。断固拒否しなければ。
このままでは、あの老人の家に立ち寄った時に、恥ずかしい思いをさせられるのは必至だ。
「そうですが――あの人ではとても見分けが付くとは見えませんし」
苦しい言い訳。
「そうは考えんが」
知っているのか。
「あ、でも、あんまり沢山取って減ってしまうのも困るし」
これも弱い。
「何百人と摘みに行く訳じゃあるまいし」
何とかして、自分とアントーニオをくっつけたいらしい。
「スィーナー様、無駄ですわ」
ネリッサの笑顔が眩しい。
作品名:充溢 第一部 第十二話 作家名: