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充溢 第一部 第十話

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第10話・2/3


 プリージは苛立っていた。
 あの娘を連れて来たのは自分だ。生前のコーディリアの頼みや、ポーシャの煽りがあったと言うのはあるものの。十分に感謝されて当然ではないか。
 田舎育ちの小娘が家に近寄る近寄らないの問題ではなく、ポーシャに掛かりきりになるのが何とも気分が悪い。
 顔はよく見せる。しかし、それは全て仕事の話なのだ。求めているものはもっと違うところにあると言うのに。
 仕事は確かであるが、それが逆に憎たらしくもある。研究室での印象も悪いように聞く。贔屓にしているのだから、人の顔を立てて欲しい。

 この度、スィーナーが頼ってきた事は、嬉しくもあり、今更ながらと言う気分が入り交じっていた。
 話を聞き始めた時、小癪な企てに思えた。とは言え、頭ごなしに言って、愛想を尽かされるのもたまったものではない。用心深く話を聞き、何処か決定的な事柄を見つけてやれば、その自尊心を瓦解させる事が出来るだろう。
 先行研究は? 新規性は? 出口イメージは?
 しかし、なかなか詰まない。この草は、身近でありながら、しかし、それ故に誰も手をつけていなかった。持ってきた資料はタデ科の植物の研究を網羅的に調べ、しっかりとまとめている。
 コーディリアによって仕込まれたことは明白だった。彼女が私講師だった頃の書類を思い出させる。彼女が敵を作った理由が、優秀すぎるからとは誰も言うまい。
 最後、社会に資する効果に弱さを感じる所があったが、しつこくそこを攻める事も出来そうになかった。

 感服してやるものか。しかし、何も言わないでは済まされないだろう。
 実験計画についてアドバイスも出来た。論文にするには自分と共著と言うことにすれば、査読に変なバイアスが掛かる事もないだろうと提案することも出来た。
 自分の尊厳を彼女に分からせる事ができただろう。

「君、もう少し学生と上手くやれないだろうか?」
 この日、気分をいっそう悪くさせたのは、研究室の連中が彼女を嫌う理由が分かってしまったからであった。"守ってやる"立場の人間がこれを痛感するのは辛いものである。
「私のお仕事は、合成と調合ですから」――明らかにそれとは違う歩みを見せているのに。


 普段から、象牙の塔と苦々しく思う仕組みに、まんまと彼は組み込まれている。それは彼とて気付く事はあるまい。
作品名:充溢 第一部 第十話 作家名: