充溢 第一部 第十話
第10話・1/3
スィーナーは、丘の上のお茶の研究について、一層意欲を燃やしていた。
あのお茶と、フランチェスカの症状について、どこか囁かれるものを感じていた――根拠はない、濃い黄色の与える印象だけで突き進んでいる。
単離と実験を繰り返す。
仕事が片付けば、葉を摘みに行き、条件を変えて抽出し、出てきた各成分を調べていく。
気の遠くなる作業。しかし、何処かに最適解があるはずだ。
「そんな事では、儂の婆さん扱いされるまで遠くないぞ」
ポーシャに馬鹿にされる程の虱潰し。一人では立ちゆかなくなりつつあった。
いつだったか老人が話してくれた。昔、このお茶に興味を持った学園の研究者が、この丘に足繁く通ったそうだ。しかし、それは長続きせず、いつしか姿を見せなくなったという。
なるほど、その気持ちは分かる。学園なら予算の問題もあるだろう。しかし、レターの一報も書かずに逃げ出す研究者など知るものか。
発憤すると同時に、冷静に振り返ってみる――実験計画を練り直す時が来ていた。
作品名:充溢 第一部 第十話 作家名: