小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

充溢 第一部 第八話

INDEX|6ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

第8話・6/7


「お前は感受性が強いな」
「意味がわかりません」
 幸いな事に自由に口を利けるようだ。目を開いたときには肝を冷やした。人形部屋で寝かされていたからだ。
「御迷惑かけました」
「いや、謝るのは儂の方だな。こんなふうだから、周囲を不幸にしていくのだ」
 愁いを帯び、且つ、凛としていた。初めて公爵に会いに行った時、不機嫌だと見えていたものの正体は、この態度だと気付いた。
「もう大丈夫かね?」
「足が動くのなら」
 この言葉は自分でも、冗談なのか本気なのか区別が付かなかった。これまた幸いなことに、今まで通り二本の足でしっかりと立つことが出来た。出来なければ、公爵に抱きかかえられて、あの椅子に座らせられていただろう。
「着替えがまだなんだ。無理でなければ、手伝って欲しい」
 背中を貫いた感触が未だに残っていたが、心臓の鼓動は落ち着いていた。
「喜んで」

 再び丸い部屋に入る。高椅子に座る少女は、心なしか血の通っているように見えた。
 上部の瓶は空になり、もう一つは満たされていた。管は既に片付けてある。
 ワンピースを脱がす為、彼女を抱き抱えてやった。下着も着替えさせてやり、新しい服に着替えると、再び、人形らしい静止した表情に戻っていた。

 フランチェスカを椅子に掛けさせると、一歩ひいて、感慨にふける。
 体重の掛かっていた感触が、体温を残していったように錯覚された。実際は、人形の体重で筋肉が圧迫された所為に他ならないのだけれど。

 隠し部屋の歯車が響く。ポーシャは公爵を呼びに出た。
 人形と二人になると、えも言われぬ気持ちになった。静かなのだ。音が聞こえない。周囲は真っ白だし、明るくも暗くもない部屋は、遠近感を奪っていく。視覚的な喪失は、存在そのものに対するそれも同時に消し去る。
 再び目を外せなくなる。
「王子様じゃないけど」
 頬に手を当て、顔と顔を近づける。
 これで目を覚ましてしまわれたら困った事になっただろう。この時ばかりは正常な思考など出来るものではなかった。今すぐにでもこの扉を開け放ち、二人で一緒に暮らしたい程の気持ちになっていた。
作品名:充溢 第一部 第八話 作家名: