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充溢 第一部 第八話

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第8話・2/7


 今回の着替えもネリッサに手伝ってもらった。
 そうだ、あの人形は、ネリッサと何処となく似ている気がしていたのだ。しっかり見比べないと――ネリッサの顔を見るのに、わざとらしさが現れてしまった。
「スィーナー様、どうかされました?」
 『公爵の屋敷の人形に似ている』とは流石に言えない。
「最近、特に楽しそうな顔していらっしゃるなって……」
「そんな事、御座いません。だって、とっても退屈な人なんですもの」
 何か言う前からそれを言い出すのだから、愉快な事なのだろう。この前のデートを見た後とはまた別に安心を得た――刹那、『ネリッサには過去がないのだ』との言葉が去来して、胸が締め付けられた。
「この様なお召し物は苦手ですか?」
 ネリッサは、私の怯む様子を見て、心配そうな声を掛ける。すかさず、否定するが、すっかり、顔を見る事が出来なくなってしまった。
 拙い事になった。焦れば焦るほど言葉が見つからない。服を褒めても意味はないし――何か嫉妬しているみたいに見えたかな? いや、先ず、ネリッサに拘ることはよそう。公爵の事だって、謎が多いのだから。
「ネリッサさんは、公のお宅に上がった事はありますか?」
「ええ、何度か、ポーシャ様とご一緒に――そうですね、今日お持ち頂いたような瓶を持って、伺いましたね」
 恒例の行事なのか。何に使うかを問うと、いつも待たされるばかりなので知らないと答えた。
 人形の事は知らないのか。
 ネリッサはポーシャ付きっ切りだというイメージばかり持っていたので、知っていて当然と信じ切っていたが、今になってみると馬鹿馬鹿しい先入観だ。
 そう見ると、今や自分の方が、ポーシャにべったりしているのではないか。ここから、この懸念は、胸の側面の陰にこびり付くことになった。
作品名:充溢 第一部 第八話 作家名: