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充溢 第一部 第八話

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第8話・1/7


 スィーナーは、マクシミリアンとネリッサのデートを見かけたことがある。
 マクシミリアンのお仕着せの着物は、相変わらず身から1センチメートルは離れている様で、不自然に気取っているように見える。一方、ネリッサの装いは自然で、しかし、お洒落に気を掛けているぞと言う格好であったため、並んでいる二人の差違は滑稽で、しばしば二度見されていた。
 芝居の稽古とはこういうものだろう。彼女は、男の立ち居振る舞いを矯正している。
 ネリッサの言う『好きになる事はないだろうけど』の『けど』の理由が分かった気もした。これは実験なのだ。
 サンプル選びに問題があるのだろうけれど――安心の気分が注がれる感触がする。


 ガロン瓶を抱えて歩く。ポーシャに頼まれた仕事だ。
 陽の光を受けて二つの色が交互に揺らめく。濃い黄色と熱い赤色。液体の比重は水よりもずっと大きく、作った自分自身も呪うほど、道中もたついた。
「スィーナー、また、フランチェスカに逢いたいと思わないか?」
 建屋に入ると早々、涼しい顔して投げかけるので、むっとした。
 瓶を門番に任せると、悪戯っぽく答える。
「思うか、思わないかで言えば、前者ですが、それって、選択の余地ないですよね?」
 笑顔を崩さないポーシャが憎らしい。
「余裕のようだな。よし、そうなら、出かけよう。その瓶を持って行ってな」
 額に汗が滲む。
作品名:充溢 第一部 第八話 作家名: