短編・『湯西川(ゆにしがわ)』にて 6~9
湯西川にて(9)湯西川芸者の別れかた
芸妓の世界では、
かつてはこの「旦那様」が不可欠でした。
芸妓が存在する土地には必ず、旦那様の存在があり、
いわゆるパトロンやスポンサーといった人物のことを
指していました。
しかし、適度に援助したり
協力するといった程度のものではなく、
芸妓一人を見出し決めると、
ほとんど生涯にわたりその世話をしてくれるものでした。
芸妓が若手見習いから一人前になるまでには、
たいへん多額な費用がかかりました。
この旦那様は着物から持ち物、装飾品や生活費までの、
数百万円~数千万円を負担するのです。
なかには数億円を出すことも珍しくないそうです。
この莫大な費用からしてみても、
だれでも旦那様になれるわけではなく、
必然的にその土地の財界人や、トップクラスの企業の経営者などに
限られていました。
多額の金銭をポケットマネーでまかなえる人
物達の特権なのです。
一方の芸妓も、
芸妓になれば誰にでも旦那様がつくわけではなく、
美貌と、卓越した芸などが備わった芸妓に限られていたようです。
若手の時に旦那様がつけばいわゆる「水揚げ」となり、
ある程度歳を重ねていても、旦那様はつきます。
芸妓はその旦那につくことになり、
旦那様は、その芸妓の一番のひいきとなり面倒を見ることで、
お互いの信頼関係が構築されていくのです。
芸妓には
目に見えてのメリットがありますが、
旦那様には、通常家庭を持っていたりするため、
ある程度割り切った生活となり、
これといったメリットはないようです。
所詮男女なので
そのようなこともあるようですが、
建前としては、健全な協力関係にあるようです。
旦那様のメリットは、「男の甲斐性」にあるようで、
「あの芸妓にこれだけのことをしてやった」
「こんなに金を出した」という粋なはからいや、
また各土地の屈指の金持ちであるから、まわりへの財力の
アピールにもなるわけです。
通常は、家庭と芸妓の両立が原則ですが、
中には芸妓にのめりこみすぎたり、
悪い芸妓に利用されたりもして、
破産をした者もいたようです。
ただ現在では、
この旦那様はほとんど皆無に近い状態といわれています。
それは時代にそぐわない制度であり、
また内容でも有るせいだと思われます。
作品名:短編・『湯西川(ゆにしがわ)』にて 6~9 作家名:落合順平