充溢 第一部 第四話
第4話・3/5
新月の夜。辺りに光の気配はなく、開ききった瞳孔も、ないものはないと諦めているかのような暗闇。
窓から顔を出せば、星明かりがあるだろう――だのに、わざわざ暗い方へ目を向け、その眼が開いているのか、閉じているのか、自分にすら分からないような錯覚の中で遊んでいた。
思い直せば、エリザベッタと言う女を、私はただ一度しか見ていない。
ポーシャが逃げ回っているのだから、何かあるのだろう事は確かだ。
初めてポーシャに出逢った時、何故、背後の彼女に気づかなかったのか。
何故、邸宅を直接尋ねないのか。
記憶を操作できるなら、邪魔なときには、また、記憶を操作してやればいいだけのことではないのか?
これらの謎が解けぬ限り、屋敷には二度と近づけない気がしてきた。
よし、明日は彼女を探そう。
ならば、精製を今のうちにやってしまわなくては。
ランプに明かりを灯し、光に顔を向け目を開けることにした。
作品名:充溢 第一部 第四話 作家名: