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舞うが如く 第3章 7~9

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 珍しく、沖田も琴も防具をつけました。
白い袴に、緋色の面紐という琴のいでたちに、
思わずため息が聞こえてきました。
背筋を伸ばした稽古着姿には、
凛とした色香さえ漂よっています。



 双方ともに、正眼に構えました。


 心もち、沖田の剣先は、下がり気味です。
その切っ先は、琴の喉元よりも少し下、真紅の胴を指し続けます。
琴の剣先はすこし上向いて、沖田の面上をとらえていました。

 上下に交差する竹刀の先が、小刻みに動いては、
相手の瞬時の隙を、覗いつづけます。
道場の格子窓の外を、土方と山南が通りかかりました。
が、気配を察知してその歩みを止めました。


 空中に飛んだ二人の身体が、
真正面から、ぶつかりました。
斜め袈裟がけに切り込んだ琴の竹刀を、沖田が柄で受け止めました。
接近したままの、ツバ競り合いにもち込まれました。



 「人を斬ったことが有るか。」


 面鉄越しに、沖田の鋭い眼光が、
琴の視線を捉えます。


 「ありませぬ。」


 「俺はあるぞ、
 先日、近藤先生と共に、
 四条大橋で、勤皇の志士を一人切り捨てた。
 人生初の殺生である。」

 「浪士組、
 組がしらの御役目とあれば、
 当然のこと。」

 「さすがに、動ぜぬな。
  俺が見込んだだけこのことはある、
  しかし、受けきれるかな、
 俺の得意とする3段突きが。」

 「のぞむところ。」

 二度三度と競り合ったあと、軽くうなずき合い、
双方ともに竹刀を擦り合いながら、
また新たな間合いを取り始めました。

 肩で息をする間もなく、
沖田が気合一閃、床を激しく踏んで前へ飛び出します。
閃光のような剣先が、琴の面前を
執拗にかすめ続けます。

 もう一足、沖田が前方へ蹴りだそうとした、その瞬間、
右にふわりと翻った琴が、半円に回した竹刀を、
道場の床板すれすれから
空いた沖田の左胴をめがけて一気に突きあがります。

 乾いた竹刀の音が、
道場いっぱいに響き渡りました・・・

 「お見事。」

 道場の格子窓に並んだ、
土方と山南が、同時に声をあげました。