舞うが如く 第3章 4~6
畑道を逸れて畦道を少し歩くと、
深い緑の木々が茂り、木漏れ日が揺れる渓流へ出ます
ところどころに取水口が設けられ、田んぼをかけまわったきた水が
再び浅瀬に戻って、小石の上をすべるように流れて行きます。
二人の姉妹は裾をめくりあげ、
黄色い声をあげながら、浅瀬の中を駆けまわります。
沖田が腰を下ろした切り株の脇に、琴も並んで腰をおろしました
木漏れ日が水面にきらめいて、
小魚たちが子供に追われて逃げ回ります。
「去る4月に清河八郎が、幕府の刺客によって暗殺されたようだ。
横浜で攘夷決行予定の2日前のことだったそうだ。」
「清河さんが・・・では浪士組は?」
「江戸幕府四天王のひとつ、庄内藩の預かりとなり
江戸市中の取り締まりの任に就いたという話だ。
新徴組と名を変えて、
わが義兄の沖田林太郎が組頭になったと、便りが届いた。
そうそう、良之助殿も元気であるぞ、
先日の武芸大会では見事に一番になったそうだ。
やはり、天狗剣法には、
手ごわいものがある。」
「沖田様には、姉上様がおられるのですか?」
「ミツ、と言う。
わしには似ず、なかなかの美形である。
だがまぁ、おぬしの足元にも及ばないがのう。」
「御冗談を。」
「そうか?
そうだ、今宵は供をいたせよ。
土方と井上にうるさく言われているのだが、
一度でいいから、芹沢と呑みに出掛けろと煩くてかなわん。
島原(遊郭)に足を運ぶのは、どうも苦手だ。
おぬしが居れば、退屈しのぎにもなろう、
日が暮れたら迎えに参る。」
「(女の)わたしが、島原に参るのですか?」
「別にどうこうなかろう、
男のふりをしておれば、それだけで済むことだ。
しかし、いい男過ぎるからくれぐれも、花魁(おいらん)には口説かれるなよ、
あとが大変に厄介となる。」
作品名:舞うが如く 第3章 4~6 作家名:落合順平