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表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(中編)―

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「では、これで会議を終わります。各部署にしっかりと通達しておいてください。お疲れ様でした。」
『お疲れ様でした。』
警視総監、野々宮は、警察の重鎮たちとの会議に臨んでいた。
そしてその会議も今終わり、この後は、仲間たちとの夕食が控えていた。
「さて、こっちも最後の打ち合わせを始めるとしますかね。」

と、いうわけで。
彼は、いつもの料亭にやってきた。
「そっちの準備はどうだい?」
「ええ。こちらは万全です。いつでも動けますよ。」
「こっちも問題ないですぜ。」
「どこもかしこも万全だ。」
「で、段取りの詳細ですが、どうするんですか?」
国家の暗部に関わる六人が、一同に会していた。
「まず、明日は各自、常時待機していてほしいんだ。」
「待機、ですか?」
「うん。待機。」
「すぐに動くのでは、なく?」
「そう。待機。」
「また、どうして?」
「ゆりちゃんが言うには、まだ情報が完全じゃないらしいんだよ。明日、交戦する間で、可能な限り情報を集めるんだってさ。で、その上で、タイミングを見てGOサインを出すそうだよ。」
「そのGOサインを待って、行動を起こすと?」
「そう。区画ごとの戦力分担と、連携指示は終わってるよね?」
「はい。終わっています。」
「GOサインが出たら、僕がそれを転送するから、即座に動いてくれ。この作戦は不意打ちじゃなきゃ意味がない。一気に一網打尽にしなくちゃ、更なる混乱が起こるはずだ。最悪の場合、超巨大なテロリスト組織に成り果て、仲間の釈放を要求してくるかもしれない。」
「そうですね。」
「そして、例の七人のことだけどね。」
「はい。」
「彼らも一応確保してくれ。でも、他の連中とはこっそり隔離して、ここに連れて来るんだ。ここは明日、僕たち以外立ち入り禁止になるはずだから。その後は、竜宮君がどうにかしてくれるはずだ。」
「お任せ下さい。」
「あと、幕僚長。」
「冗談だっていうのは分かるんですけど、肩書きじゃなくて名前で呼んでくれませんかね。」
「まあまあ。で、神野君。」
「なんでしょう?」
「例の件、どうなってる?」
「問題ありません。特殊部隊を動かす、という話でしたよね?」
「うん。」
「それでしたら十分に可能です。あとは、場所さえ指定していただければ。」
「頼むね。場所は明日、言うよ。」
「はい。しかし、一体何を……。」
「いや、ね。どうせあの子のことだから、自分だけ死のうとか考えてるんじゃないかなー、と。で、彼女の傍には、当然あの子もいるんだろうな、ってのも予想できるし。で、その二人を確保するためには、君の特殊部隊でも使わないと無理だろうな、と思ったんだよ。」
「はぁ………。」
「あの二人は、子供たちの中でも、中々に曲者だからね。」

「お前ら、これ多すぎだろう!」
「そうかしら?あたしは二本行けるわよ?」
「『行けるわよ』じゃねぇ!お前ら未成年だって自覚はあんのかよ!?」
「あるわよ。」
しれっと肯定しやがった。
「っていうか、それはレンの酒だろ!?」
「いいっていいって。どうせ本人いないし。蓮華が退院するまでには次のを作っておくわよ。」
「本当か?」
「ええ。本当よ。」
「…………絶対だからな。」
「そんな目くじら立てなくていいわよ。約束は守るわ。」
約束、だからな。
そんな事をしている間に、雫が今夜の料理を運んできた。
今夜はカレーだ。
二晩ほどじっくり煮込み、味と、料理人の気持ちまで沁みた、極上のカレーだ。
「ふふっ。お兄ちゃん、なんだか明るくなったね。レンに会いに行く前とはかなり違うよ?」
突然、雫がそんな事を言い出した。
「そうか?」
「うん。そう思うよね?ゆりさんたちも。」
「そうね。確かに、蓮華に会う前と後じゃあ、大違いね。」
ゆりも同意した。
「そうっすね。さっきと今じゃ、瞳の輝きが違うっすよ。」
「お兄様に同意するの。何かあったの?」
「いや、それは詮索しないのが華ってものでしょ。」
「……理子が言うと、何か別の意味に聞こえる不思議。」
「まったくだな。」
他の連中も続々と同意しつつも、話題が少しずつそれかかっている。
「そんなに違うか?」
「凄い違うわよ。えーと、ほら。カードゲームのアニメってあるじゃない。」
「あるな。」
「あれで、主人公の行動によって、カードが哀しそうに見えたり嬉しそうに見えたりするじゃない?」
「するな。」
「そんな感じなのよ。」
言っていることがよく分からん。
「あー、つまりな?」
と、ゆりの抽象的な説明を、煌が引き継いだ。
「こう、『具体的にどうか』なんて事を聞かれれば答えられないんだが、『なんとなく』そんな感じがする、っていうことだ。本人ですら分かっていない水面下の心の動きが、うっすらと表れているっつーか……。」
「ゲーム画面に表示されているヒロインの目に、虹彩が書かれているかどうかの違いみたいなもんっすよ。」
「いやそれは大問題だろ!?」
「それは全く違う!!」
俺と煌、それぞれが思いっきり突っ込む。
「ま、お兄ちゃんが元気になったなら、よかった。」
雫が、ほっとしたようにはにかんだ。
それを見て、俺も、知らず知らずのうちに、笑顔になった。
まったく。可愛いなぁ。こいつ。
「ありがとな。」
「うん!じゃ、冷めないうちにどうぞ。」
『いただきます。』

食事をしながら、あたしは、ふと思った。
「そういえば、あたしたちと紫苑たちが始めて出会った日の夕食も、カレーだったわね。」
「そうっすね。」
「ああ、初めて食べた雫の手料理は、カレーだったな。」
反応が返ってきたところをみると、どうやら声に出してしまっていたらしい。
「あう。」
雫ちゃんの顔が、ボッと赤くなった。
多分、あの日にあったいろいろなことを思い出しているのだろう。
……紫苑が、『お前らこいつに何したんだよ』と言いたげに睨んできているが、無視。
「あの時も今も、あなたの料理はおいしいわね。」
一緒に暮らすようになってから、今まで、ずっと彼女の料理には世話になってきた。
紫苑と雫ちゃんが家に来るまでは、あたしたちで料理を作っていた。
とは言っても、ほとんど蓮華に頼りっきりだったけど。
雫ちゃんの料理は、悪いけど蓮華すら及ばない。
こう言うと、ベタだが、愛情の量が違うのだ。
蓮華の料理に愛情が籠もってないわけではない。
ただ、数値に表すとすれば、ケタが違うのだ。
「でも、カレーを粉から作るのには、驚かされたわね。」
「一番驚いたのは買出しに出たオレだがな。」
「そういえば、あの夜だったわね。次の日の夜だったかしら?」
「ん?何がだ?」
「ああいや、こっちの話よ。女の話。野郎はすっこんでなさい。」
「じゃあ今ここですんなよ……。」
煌が呆れたように言うが、無視。
雫ちゃんが更に真っ赤になっているが、こちらも無視。
この兄妹のことは、少し心配だったけど。
間違った方向には進んでないみたいで、よかった。
そして、あたしには分かる。
この兄と、妹と、恋人は、あたしたちがいなくなっても、三人全員が、幸せに生活できるだろう。
本来なら、有り得ないことかもしれない。
輝の大好きなギャルゲーなんかでは、間違いなくバッドエンド直行コースだろう。
でも、この三人は。