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表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(中編)―

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きっと、幸福な道を、さも当然であるかのように、簡単に歩んでゆくだろう。
そう確信したあたしは、再びスプーンを動かした。
他の連中に食われる前に、カレー、お代わりしないとね。
でも、本当は、カレーよりも。
雫ちゃんの料理よりも。
みんなの笑顔を、ずっとずっと、見ていたかった。

翌日の朝。
指定された時刻に起きた俺は、なるべく音を立てないように、支度を整えた。
玄関の前には、煌が持ってきたワゴンが待機している。
ゆりたちは、家の金庫室(俺は知らないが)から、様々なものを運び出している(らしい。中身は知らされていない)。
俺は、やはり音を立てないように部屋を出ると、隣の部屋に入る。
そこは、雫の部屋だ。
細心の注意を払いながら、ベッドの脇に移動する。
………勘違いするなよ。
妙なことをしに来たわけじゃ、ない。
枕元に立ち、雫の寝顔を見下ろす。
安らかに、眠っている。
その表情は、穏やかに笑っている。
きっと、楽しい夢でもみているのだろう。
俺は、雫の机の上に、一つの封筒を置いた。
この封筒の中身は、昨日、レンの病室に置いて来たものと、深い関係がある。
我が一家にまつわる重要な秘密と。レン結婚の約束をしたときに、その条件として出した『問題』に関わる事情だ。
こんなものを出すなんて、魔が差したとしか思えない。
ゆりたちにも、半端無い迷惑をかけるだろう。
だが、隠すのはやめだ。
帰ってきたら、こっちの戦いにも、決着をつけよう。
「行ってきます。」
そっと言い置いて、部屋を出た。

朝五時。
予定通りに、拠点に到着。
「おはよう。ワゴンの荷物は、支部長室の前に運んでおいてもらえる?ええ。よろしく。」
出迎えに来た隊員にそう言い、あたしたちは建物の中へ。
そのまま会議室へ向かう。
中に入ると、そこは、いつに無く活気に満ちていた。
当然だ。
関東の人員、その全員がここに集まっているのだ。
みんな、あたしたちを見つけると、姿勢を正して敬礼する。
そして、その後すぐに作業に戻る。
あたしたちは、そのまま会議室へ。
会議室の中に入ると、そこにいた者全員が、一斉に起立した。
紫苑は若干驚いているようだが、まあ、無理もないだろう。
あたしたちが前にある席に到着すると、全員が敬礼をする。
あたしたちも、敬礼を返す。
そのまま、着席する。
マイクを手にとり、声を発した。
「では、これより作戦会議を開始します。」

…………誰?
そこにいるのは………?
お兄ちゃん?
ふふっ。くすぐったいよ。
お兄ちゃん?その封筒は、何?
お兄ちゃん?どうしたの?
……うん。行ってらっしゃい。
でも………お兄ちゃん、どこへ行くの?
待ってよ、お兄ちゃん。
ねぇ、お兄ちゃん。
待ってよ。
置いていかないで。
行かないで。
私を置いてかないでよ。
お兄ちゃん………。
ねぇ、待って!
お兄ちゃん!待ってよ!!
お兄ちゃん!!
「私を置いてかないでよ!!お兄ちゃんッ!!」
目の前にあるのは、部屋の壁だった。
「今のは…………夢?」
全身に、嫌な汗を書いていた。
心臓が、バクバク言っている。
呼吸が荒いのが、自分でも分かる。
「はぁ…………はぁ…………はぁ…………。」
時計を見ると、まだ朝の五時前だ。
「………シャワーでも浴びよっと。」
そうだ。あれは、悪い夢だ。

お兄ちゃんが死んだりなんて、するはずがない。