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茶房 クロッカス その4

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 ところがその日の閉店間際に、携帯に電話が掛かってきた。
 携帯の液晶画面には誰の名前も表示されてなかったが、見た瞬間もしや…と思った。
 緊張の余り、危うく携帯を取り落としそうになった。
 辛うじて手の平に握りしめると、急いで受話ボタンを押した。
「もしもし」
「あ、、悟郎くん。私、優子だけど…今、平気?」
「優子! ――あぁ、もう少ししたら閉店だから片付けしてたところだよ。うちの店は午後七時までだからさっ!」
「あっそうなんだ。じゃあ少しくらいはお話しても大丈夫?」
「優子からの電話ならいつだってOKさ! あはは……」
「うふふ、ありがとう! その調子の良さは昔のままねぇ。――この前は本当にびっくりしたわ! でも仕事の途中だったから……。良かったらもう一度会って、ゆっくりお話したいんだけど、どうかな?」
「どうかな? って、俺がイヤだと言うとでも思ってるのかぃ?」
 チッチッチッ、俺はわざと軽く舌打ちをし、
「優子は信じないだろうけど、俺は今でも優子にゾッコンなんだぜ!」
 と、言った。
「もうー、よく言うわよ悟郎くん。あの時、私を振ったのは悟郎くんなのに……」
「あー、それを言われると何も言えないなぁ。――反省してます」
 俺の気持ちはマジだったけど、優子は冗談としか思ってないようだった。が、それも無理ないことに思えた。
 その後、少し話してから俺たちは次回の会う約束をして電話を切った。
 もちろん今回は、優子の電話番号はしっかり着信履歴に残っているから、俺の方から電話することだっていつでもできる。
 俺は嬉々としてその番号をアドレスに登録した。
 登録名は『優子 My LOVE』
 あまり他の人には見せられないかも……フッフッフ。
 次の土曜日、待ちかねた優子とのデートの日だった。俺は、朝からそわそわと落ち着かない。
 沙耶ちゃんが時々、不振げな顔で俺を見ているのには気付いていたけど、敢えて知らんぷりをして軽く口笛を吹いたりした。
《フッフッ、優子との出会いが進展しそうだったら沙耶ちゃんにも話してやろうかな……》