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茶房 クロッカス その4

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 その日の午後、珍しく重さんがやって来た。それも夏季さんと一緒に。
「おう、重さん。このところあんまり姿を見せなかったけど、どうしてたんだい?」
 いつもの俺なら、きっともっと心配していたかも知れないが、俺自身、優子のことで頭がいっぱいだったからあんまり気にしてなかったっていうのが正直なところだ。
 俺が声を掛けたのに、二人揃って返事をしない。それどころか、互いにチラチラ見合いながら何だか落ち着かないように見える。
「――どうしたんだよ、二人とも。何だか変だぞっ」
 俺が二人の顔を見比べながらそう言うと、そばでその様子を見ていた沙耶ちゃんが突然言った。
「もしかして……。重さんと夏季さん、何か報告することでもあるんじゃないんですかぁ?」
「えっ、報告……って?」
「もうー、マスターは相変わらず鈍いんだから……。ふふっ」
「うん?」
 俺は、沙耶ちゃんの言葉の意味を図りかねてキョロキョロとした。
「いやぁ、さすがに沙耶ちゃんは感がいいなあ。実は俺たち……」
 そこまで言うと重さんは、夏季さんに優しい視線を送り、『うん』と頷いてから続けて言った。
「――実は、一緒に暮らすことにしたんだよ。俺たち。エヘヘ」
 重さんの照れくさそうな笑いに、俺は思わず、
「ヤッター! 重さん、やったじゃないかっ。おめでとう!」と言った。
 しかし、言った後で気が付いた。
「――あっ、でも夏季さんにはご主人が……」
「悟郎ちゃん、そのことは俺も知ってるよ。だけどいいんだよ。俺ぁ、夏季さんと一緒に過ごせる。それだけで十分幸せなんだ」
「うむ、重さんがそれで幸せなら、俺がそれ以上言うことは何もないよ。でも、夏季さんもそれでいいのかぃ?」
「ええ、重さんはこう言ってくれてるけど、私は折をみてきちんとしようと思ってるの。だって、今までは過去を引きずるように歩いてきたけど、これからは未来を見て歩きたいんですもの。重さんと……」
 そう言うと夏季さんは、頬をポッと赤く染めた。
 パチパチパチパチ……突然拍手が響いた。
 見ると、傍らでみんなの様子を固唾を飲むようにして見ていた沙耶ちゃんが、ニコニコと嬉しそうに笑顔を浮かべ拍手していた。
 俺も一緒に拍手を『これでもかっ!』って勢いでした。
 重さんも嬉しそうに笑っていた。

 人には色んな愛の形がある。
 二人が一緒に暮らすのを見て、もしかしたら『あの二人は不倫ね!』って言う人もいるかも知れない。しかし、俺は知っている。
 二人は不倫などでは断じてないし、本当にお互いを思いやっている。
 それこそが本物の愛じゃないのか!!
 恋愛音痴の俺には不思議なことだけど、確固たる自信が沸々と湧き上がってくるのを感じた。
 例え誰かが二人のことを悪く言ったりしても、俺だけは分っている。
 俺だけは、ずーっと二人の味方だ! なぜか強く強くそう思った。