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茶房 クロッカス その4

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 俺は覚悟を決め、コーヒーを持って彼女の席へ。そしてテーブルにコーヒーをそっと置くと、
「お待たせしました、優子さん」と言った。
 彼女は一瞬戸惑ったように俺の顔を見つめ、しばらく見つめた後、息を飲むと、
「あのぅ……、もしかして悟郎くん?」と聞いた。
《覚えていてくれたんだ!》
 そう思うだけで嬉しくって、俺はにっこり微笑んだ。
 優子は目の前の出来事が信じられないかの如く目を見張り、しばらく俺の顔を穴があくほど見つめた後、懐かしそうに言った。
「本当に悟郎くんなんだぁ……。でもなぜここに? だって東京の大学に行って、そのままそちらで就職したとばっかり……」
「ごめんよ、驚かせて。実は五年ほど前に向こうの会社を辞めて帰って来たんだ。サラリーマン生活にも嫌気がさしてたし、ちょうど親も帰って来いって言うし……で、今はこの通り喫茶店のマスターさっ」
「まぁ、そうだったの。知らなかったわ」
「優子、あっ、こう呼んじゃだめかなぁ?」
「うぅん、構わないわよ。私も悟郎くんて呼んでも?」
「もちろんだよ! そう呼んでくれた方が嬉しいよ」
 そう言うと優子は、やっと昔と変わらぬ笑顔を見せた。
「それにしても何年ぶりかなぁ……」
「そうねぇ、かれこれもう二十年以上になるわね」
「優子、こんなこと聞くのも変だけど……、幸せにしてるんだよなぁ?」
「えっ? えぇ、まぁ……」
 優子の返事は歯切れが悪く、俺は心配になって尋ねた。
「もしかして、今、幸せじゃないのかぃ?」
「幸せじゃないわけじゃないわ。でも、普通の結婚生活はしてないの。今は、主人とは別れて娘と二人暮しなのよ」
 そう言うと、優子はポツポツとそれまでのことを話し始めた。