小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

茶房 クロッカス その4

INDEX|5ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 


 新年が明けて四日からは店も正月休みが終わり、いつもの毎日が戻ってきた。
そして一月、二月はあっという間に過ぎて行き、その後も何の変哲もなく日々は移ろい、気が付くと季節は春になっていた。
 何気なく過ごしていても、忙しく過ごしていても、そして悩みながら過ごしていても、どう過ごしていても一日一年は確実に過ぎて行き、新しい季節がやってくるもんだなぁ。
 俺はちょっとだけ感傷的な気分で明るい空を見上げた。
 
 これを書き始めてからの一年があっという間に過ぎ、その日は突然やって来た。
 ようやく冬の寒さにも別れを告げようとしていた三月初旬のある日の午後。
 その日は珍しく沙耶ちゃんが、何か用事があるとかで店を休んでいた。

 カラ〜ン コロ〜ン
 カウベルの音に俺が入口を振り返ると、一人の女性が立っていた。
「こんにちは〜。ちょっとお邪魔してもいいですかぁ〜? 表のクロッカスがあんまり綺麗だったもので……」
 そう言うと彼女は、やはりあの席に座った。
 ガラスの壁を透して外のクロッカスが見えるその席に……。
 俺は言葉を失っていた。
 いらっしゃいすら言ってない。
 彼女は俺に気付いていないらしい。
 俺は驚きと嬉しさと、同時に信じられない思いで、ただただ彼女を見つめていた。
 さすがに彼女も変に思ったのか
「あのぅ…コーヒーをお願いできますか?」と、遠慮がちに言った。
「あっ、すみません、コーヒーですね。ただいまお持ちします」
 俺は慌ててそう言うと、カウンターの中に入ってコーヒーの準備を始めた。
 しかし、ついつい目は彼女の方へ向いてしまう。
 店内にコーヒーの香りが広がると、こちらへ顔を向けた彼女が、
「いい香りですねぇ。こんな風に一人でゆったりコーヒーを飲むなんて、何て久しぶりなのかしら」
 そう言ってにっこり微笑んだ。
 その笑顔には、昔と変わらぬ優子の優しさが溢れていた。
「優子……」
 俺は思わず呟いた。
 しかし、カウンターと彼女との間には少しばかりの距離があるため、その声は彼女には届かなかったようだ。