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茶房 クロッカス その4

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 さぁ、それじゃあケーキを食べよう! とした矢先、新たな客が現れた。
 カラ〜ン コロ〜ン
「やぁ、マスター、久しぶり〜」
 そこには一組のアベックが立っていた。
「やあ、重さん。どうしてたんだぃ? このところご無沙汰だったよなぁ」
「いゃ〜悪い悪い。えへへへっ」
「まぁ、そんなことより、ちょうど良いや。今ちょうど薫ちゃんの出産祝いをしてた所なんだよ。一緒に祝ってやってよ!」
「おう、薫ちゃん。ついに産まれたか。どれどれ……」
 そう言うと、薫ちゃんの腕の中で眠っていた赤ん坊をじっと見つめて言った。
「ほほう、可愛いなぁ。俺もこんな赤ん坊が欲しかったなぁ」
「あ、そうか。重さんにはもういくらなんでも赤ん坊は無理だよなぁ」
 俺がそう言って笑うと、
「いや、そんなことはないですよ。まだまだ七十歳でも子供を作った人いますからね」
 そう言って良くんが励ましの声を掛けたが、当の本人が否定した。
「いやぁ、そう言ってくれるのは嬉しいんだが、さすがにこの年で子供を作っちまったら、子供がかえって可哀想だよ。なぁ、夏季」
 重さんの言葉に、そばにいた夏季さんがポッと頬を染めた。
「相変わらず仲良くやってるんだな。二人とも……」
 俺がそう言うと、重さんは今の様子を簡単に説明してくれた。

 どうやら夏季さんは、重さんの仕事の時間に合わせてパートの勤務時間も変えてもらい、重さんが帰宅する頃には家にいて、夕飯の支度をして待っているらしい。だから重さんも、それまでは仕事が終わると帰りには必ずクロッカスに寄ってコーヒー一杯と雑談を楽しみにしていたのに、急いで家に帰り、一緒に夕食を食べるのが今では一番の楽しみなんだと……。

《店の大切な常連客は一人減ったことになるが、二人の幸せには代えられない。うん、これでいいんだ!》
 俺は一人で勝手にそう思ったりした。