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茶房 クロッカス その4

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「うーーん、実は私はね、私がお嫁に行くとお母さんが一人になっちゃうじゃない? だから、ちょっとねぇ……って、そう思ってたんだ」
「えっ!?」
 それを聞いていた俺は、つい言葉を発していた。
 しかしみんなには俺の声は聞こえてなかったようで、誰も俺には顔すら向けなかった。
「うーん、そうか……。やっぱり今までずうーっと二人でやって来たんだもん、考えちゃうよねっ。お母さんにも恋人とかできればいいのにねぇ」
「あ、それがね、実は……」
「うん?」
「――もしかしたら、お母さんに恋人ができたかも知れないんだぁ」
「えっ、本当かぃ? じゃあ僕、遠慮なくプロポーズできるなぁ」
「もう、良くんったら……」
 沙耶ちゃんは顔を真っ赤にしている。

「お母さんにも恋人がいるんなら、一緒に合同結婚式なんてどう? 親子で並んで花嫁なんて素敵なんじゃない!?」
「もう、薫ったら、簡単に言うんだから〜。お母さんの恋人がどんな人かも分からないんだよ。もしかしたら、私のことを気に入らないって思うかもしれないじゃない。そうなったらどうしよう。もし、それが原因でお母さんの恋が終わったりしたら、私、悲しいよ。それに、そうなったら私どうしたらいいのか……」
「ふぅ〜ん、なるほど……。そういう場合もあり得るよね。で、そのお母さんの相手の人がどこの誰かって知ってるの?」
「いいえ。聞いてみたいとは思うんだけど、なかなか聞けないんだよねっ。お母さんも何も言わないし……」
「やっぱり、お母さんが自分から話すのを待った方が良いんじゃないの? お母さんにも考えがあるだろうし……」
 京子ちゃんが口を挟んだ。
「でも、それでお母さんがもし再婚てことになったら、沙耶も安心して僕のところに来れるかぃ?」
「もう、良くんったら。また、そんなことをここで言わなくても」
 沙耶ちゃんが良くんをチラッと睨んだ。
「いいじゃない。良くんの気持ちがはっきり分かって。私は賛成だよ! 沙耶と良くんの結婚。うーん、楽しみだなぁ〜。キャハハ」
「もう〜! また薫ったらぁ気が早過ぎよ〜。やっぱり今の私にとっては、お母さんの恋愛の方が重大事項よ! 相手の人が良い人で、私も仲良くできる人だったらいいなぁ〜」
「あのさ……、もしも、もしもだよ。そのお母さんの相手が俺みたいな人だったらどうする?」
 俺はどうにも気になって、どさくさ紛れに聞いてみた。
「えぇっ!」 
 と、沙耶ちゃんは驚きの表情で俺を見、薫ちゃんは半分呆れ顔で、
「もうマスターったら、何を言い出すかと思えば……、うふふ。マスターみたいな人だったら、いいに決まってるじゃん! ねぇ、沙耶!」と、言った。
「うーん、イヤだ! マスターみたいな人だったら、絶対反対!!」
「えっ! そ、そんな〜〜」
 沙耶ちゃんの言葉に、一気に地獄の底に叩き落とされたような気がして俺は軽いめまいを覚えた。