茶房 クロッカス その4
俺はおりゅうさんの方へ視線を向けた。
「――おりゅうさんも気付いてただろ? 小橋さんの優子への気持ちには……」
「さぁ、どうかしら。ふふふっ」
おりゅうさんは意味深な笑いを見せた。
俺はおりゅうさんの笑いに『その話にはそれ以上立ち入らないで』という意思を感じて話を変えた。
「そう言えば以前に、おりゅうさんから優子の話も聞いたんだよなぁ〜」
「えぇそうね。確か前に話したわよね。優子のこと」
「うん。あの時の話に出てきた優子さんが、優子のことだったなんてなぁ。思ってもみなかったよ」
俺は正直、今更ながらに驚いた。まさかそんな身近に優子がいたなんて……。
「えっ! 何? おりゅうさん、悟郎くんに私のことを何か話したのぉ?」
「うん、ちょっとだけね。ふふふっ」
「えぇーーっ! どうしてぇー?」
「以前優子、小橋さんと一緒に飲んだことあったでしょ?」
「えぇ……」
「その小橋さんと悟郎さんが一緒に来たことがあってね。その時にちょっとだけ優子の話が出たのよ」
「えぇーっ、で、何て言ったの? 私のこと」
「それは……、ねっ、悟郎さん!」
「あははは。心配しなくてもいいよ。変なことは聞いてないから」
「本当かしら?」
「あぁ、ただ優子が結婚してからの色々なことだよ」
「私が結婚してからのこと?」
「うん、でもそのことは優子の口から改めて聞きたいなぁ。だから今日はその話はやめて楽しく飲もうよ」
「えぇ、そうね。そうしましょう。でもその前に一つだけ聞いてもいい?」
「えっ、何だろう?」
「あのう、悟郎くんは結婚してるの?」
「何だ、そんなことか。俺は……」
「悟郎さんは独身よ。優子、安心しなさいな」
おりゅうさんが俺の言葉を遮って高らかに言い放ち、
「――それより、優子と悟郎さんの関係をまだ聞いてませんけど〜」
と、わざとらしく口を尖らした。
作品名:茶房 クロッカス その4 作家名:ゆうか♪