茶房 クロッカス その4
俺たちは外へ出て歩き出した。
「で、どこへ行くんだぃ?」
「うん、実は私の幼馴染がこの近所でスナックをやってるの。そこはどうぉ?」
「へぇー、優子の幼馴染が……。いいよ、そこへ行こうよ」
「――近いのかぃ?」
「えぇ、歩いてもすぐだから」
「うん分かった。じゃあ行こう」
俺は優子にリードされるように歩いた。
しばらく歩いた所で優子は立ち止まり、看板を指差して言った。
「ここなの」
「えっ! ここ?」
二人を待っていた看板は、ピンクの派手な丸文字で『R』と書かれていた。
《えっ、ここっておりゅうさんの店じゃないか。優子とおりゅうさんが幼馴染……ってことは……》
俺は頭が混乱してくるのを感じつつ、それでも優子に従ってそのドアをくぐった。
「いらっしゃーい。あらっ、優子。よく来たわね。今日は一人?」
そう言いつつ後ろの俺が目に入ると、さも驚いたように言った。
「――まぁー! 悟郎さんじゃないの。どうして優子と?」
おりゅうさんは首を傾げた。
「――あっ、その前にクリスマスパーティーのお礼を言わなくっちゃね。うふふ」
「あぁ、そう言えば、あの時は忙しいのに来てくれて、こっちこそありがとうだよ」
「じゃあ、お互い様だわね。私もかなり楽しい思いをさせてもらったから……」
そう言うとおりゅうさんは唇をすぼめて笑い、
「――でも、そんなことより、本当にどういう関係なの? 優子と悟郎さんて」
おりゅうさんは俺たちにおしぼりを手渡しながら、興味津々という目で尋ねた。
「ねえ、悟郎くん。おりゅうさんのこと知ってるの?」
優子が不思議そうに俺に聞いた。
「あぁ、実はそうなんだよ。話せば長いんだけど……」
優子の瞳は、それを聞くまでは帰らないぞっていう、強い意志を感じさせた。
「それより、ねぇ、おりゅうさん。優子の幼馴染なんだって?」
俺は自分の脳みそを整理するために聞いてみた。
「そうなの。優子とは幼い頃から、いっつも一緒に遊んだ仲なのよ。ねぇ優子」
「えぇ。うふふ」
おりゅうさんと優子は、顔を見合わせて微笑んだ。
「ねぇ優子、話違うけど小橋さんて知ってるだろ?」
「ん? 小橋さん…? あぁ分かった! JRに勤めてる人ね。彼がどうかした?」
「実は彼は、うちの店の常連さんなんだよ」
「へぇ―、そうだったの?」
「実は、以前から優子の話は聞いてたんだよ。小橋さんから……。彼は優子に惚れてるようだったからね」
「えっ、まさか……。だって小橋さんには確か奥さんがいるんじゃないの?」
「うん、そうなんだよ。でも彼は、女性に関しては病気みたいなところがあってね。でも決して悪い人じゃないんだよ。彼の名誉のためにも言っとくけど」
「ふぅーん、そうなんだ。でも私は不倫なんてする気は端〔はな〕っからないわよ」
「うん、優子らしいね」
作品名:茶房 クロッカス その4 作家名:ゆうか♪