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王の光

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 世界でも大きな影響力を持つ大国同士による合併は、文字通り世界中を震撼させた。コロンブスの侵略行為も、それに危機感を感じてのことだったのかもしれない。自らの力を先に示すという行為は、果たして成功した。だが、それは彼らが意図した方向とは違う向きに進んでいく。彼らが披露した新兵器こそザクールであり、そしてEUも、新国家――ロイナ連邦も、それを見逃さないはずはなかった。
 コロンブスより強力なザクールが必要だと、EUの首脳は揃って主張した。陸の戦車・海の戦艦・空の戦闘機……それらとともに行動し、汎用性を追求した機体を、世界は求めた。そして、EUにおけるザクール開発を任された者の中に、テオドールがいた。
 テオドールは、戦車乗りという立場から出世した人物であり、その操縦技術の高さが評価されていた。だが、当時既に四〇歳となっていた彼は戦車乗りではなく、その育成という仕事に携わっていた。彼の操縦センスは独特のものであったが、それと同時に彼はそれを部下に伝えるのが上手かった。彼は、指導者としても一流という評価を得ていた。
 その彼にザクール開発という仕事が与えられたのは他でもない、ザクールの通常移動が陸上であったからだ。陸で最強の兵器である戦車を最も上手く操縦できる男にその役目が回ってきたのは、当然ともいえた。
 ザクールの開発において彼が追求したのは、その機動性だった。コロンブス大公国のそれは、人型という利点を最大限活かした大型マシンガンの装備や、高さのある障害物を簡単に乗り越えられるという特徴を持っていたが、彼らはそれだけで満足しなかった。そして陸上で戦車が圧倒的強さを誇っている中で、何かそれを上回ることができるものがあるのかと考えた結果辿り着いた答えが、それだったのだ。
戦車乗りとして戦車の能力にプライドのようなものを持っていた彼にとっては、失敗しても構わないプロジェクトだったらしい。そのため、無理を承知で多くの調整を行った。失敗によって戦車の性能を裏付ける目的もあった。しかし、あろうことか戦車を上回る機動性を持った人型兵器の開発は成功してしまった。
「すごいな、ソフィーの親父さんは」
「ええ。それで中佐から大佐に昇進したの」そう言う彼女は嬉しそうな様子を微塵も見せず、むしろ寂しそうな表情を浮かべていた。「でもね、そのせいで、お父さんと過ごす時間はほとんどなくなったのよ」
 「父」ではなく「お父さん」という呼称に変わったことすら、彼女は気づいていないようだった。軍人の父というのは、当然そう簡単に帰宅できるものではないため、それまでも彼女の家にテオドールがいることは少なかった。だが、たまの休暇に帰ってくる彼と過ごす時間が、ソフィーにとってはかけがえのないものだったのだ。それすらも奪われた彼女は、日に日に元気を失くしていった。
 そのとき「リア」はまだ十三歳。父親離れする前に無理やり父親と引き離されたことで、むしろ彼女は父親という存在に依存してしまうことになった。会いたい。その思いが彼女を包み込む。そうして彼女がとった行動が、軍隊に入るというものだった。
 当然ながら、十三歳の少女を入隊させるほど、EUFの人員は不足していなかった。だが、ある分野においては、それこそ文字通り猫の手も借りたいほど人手が不足していたのだ。父の仕事をたった一回だけ見学させてもらったときに知った彼女は、そこに目をつけた。それは、ザクールのパイロットだった。
 そのとき、ザクールの調整は最終段階にまで入っていた。二足で動くそれの踵部分に取り付けられた小さなタイヤが回転することにより、戦車と比べて圧倒的に小回りが利き、スピードも速い。だが、それはある条件を満たしたと仮定すればの話だった。
「ある条件?」ソフィーの話を遮り、ジルは尋ねた。
「そのザクール、乗れる人がいなかったのよ」
「え? それじゃあ、開発しても意味なくないか」
「ええ。だからお父さんたちは焦っていたみたいね。シミュレーターを用意し、何人もの優秀な戦車乗りが練習していたの。それでも、まともに操縦できると判断されたのは僅かだけ。当然、ザクールを実戦投入できるレベルではなかったわ」
「そっか。小さいタイヤで動く分、わずかな振動や荒れ地での操縦が難しくなるのか」
「その通りよ。でも……いいえ、だからこそ、私はそこに目をつけたの」
「それってつまり……」
「ええ。私がザクールを操縦してやるって決めたの。我ながら、バカな考えを持ったわ」そう言って、彼女は自嘲気味に笑う。
「そんなことできるわけない」ジルも苦笑いを浮かべながら言った。「正規の軍人が何人も失敗していたのに」
「でもね、乗れたのよ」あっさりと、彼女は答えた。
「え?」
「お父さんの目を盗んで、そしてお父さんの名前を盾にして、私は半ば無理やりにシミュレーションをさせてもらえたのよ。そうしたら、一発で指定された動きを全部こなしちゃった」
 そう言う彼女の表情からは、相変わらず自分に向けているであろう嘲笑が消えない。決して自慢したいのではなく、むしろ当時の自分をバカにしているのだ。
 彼女をシミュレーターに乗せた、まだ士官学校を卒業したばかりの若い軍人も、まさかそのような事態は想定していなかったらしい。慌てて呼ばれたテオドールは自分の娘がしでかしたことを信じられず、もう一度やってみるように促した。目の前ですぐに失敗するのを見たかったのだろう。だが結果は、彼が望んだことと真逆に進んだ。「リア」は、先ほどよりも好成績をマークしたのだ。
 彼らが必死になって探し求めていたザクールのパイロットが、思わぬところから現れた。願ってもないことだ。しかし、それはテオドールの娘でなければという条件下に限る。当然、彼はその結果を見ても娘を軍隊へ入れることを認めなかった。しかし結局認めざるを得なかったのは、やはり彼が父親でありながら軍人であったためだろう。「リア」を自分の保護下に置くという条件で、彼は彼女をEUFに入れた。
 彼女の母は猛反発したが、テオドールの説得により最後は折れた。彼女もまた、このプロジェクトが発足当初よりも重要な意味を持ち始めたことを知り、そしてそれを最終段階に入ってから失敗した夫に与えられる影響を危惧したのだろう。
「私の後でもう一人操縦できる人が増えて、結局ザクールプロジェクトは再び進み始めたの」
「そのもう一人が現れなければ、今ソフィーが戦うこともなかったのかな」
「もしかしたらそうかもしれないわ。でも、彼も自分が私をこの世界に引きずり込んでしまったことに責任を感じていたみたい。今ではEUFのエースよ」
「エース? まさか……」
「ええ。その若い軍人というのが、士官学校を卒業したばかりのレアル大尉だったのよ。あ、当時はまだ少尉か」
 何の因果か。間接的とはいえソフィーを軍人とした男が、今は女王を守る騎士として戦っているのだ。
「そんなのって……」
「ジルが言いたいことは分かってるわ。でも、今更どうしようもないことなのよ。三年前に私がした判断が正しかったのかどうかよりも、今大事なのはジルを安全な場所に連れて行くことでしょ? ほら、早く乗って」
作品名:王の光 作家名:スチール