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王の光

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「何をやっているの、ジルは」
 ルークからキングが逃げたと情報が入ったのは、リア=ローランがロストクへ到着しようというときだった。驚いたが、パイロットがジルということを聞いてさらに驚いた。同時に、父――テオドールの顔が浮かぶ。やはり、彼はザクールを操縦できるのだ。
 ロストクへ向かうのを中止して、彼女はキングを止めるよう指示された。「ロストクの防衛」と「キングの情報」を天秤にかけて判断したのだろう。軍からすれば、それはわずかに後者が重かったらしい。
 その判断が正しいか間違っているかは、一兵士であるリアには何とも言えない。しかし、キングの情報が重要であることは間違いない。今、あの機体の詳細を敵に知られるわけにはいかないのだ。クイーンの特長を活かし、彼女はキングを待ち伏せることにした。
 ジルがやってきたのはそれからすぐのことだった。どうやら、リアのすぐ後に脱走したらしい。自分が彼の部屋を訪れたことを思い出し、唇を噛む。あのとき以外、彼に脱出のチャンスはなかったはずだ。
「止まりなさい」
 キングへ通信を入れる。自分の不始末は、自分で何とかする。レアルを失って、彼女が学んだことだ。
「ソフィーこそ、俺を止める暇があるなら早くロストクに向かうべきじゃないのか」
 ジルの言葉がコクピット内に響いた。それはもっともだ。そして、彼が危険を冒してまで脱走したことも納得する。故郷を助けたいという思いだけなのだろう。
 それでも、彼を通すわけにはいかない。キングの進路を機体で塞ぐと、マシンガンを構える。当然実弾が装填済みだ。引き金を引いてコクピットに撃ちこむだけで、ジルは死ぬ。
 ジルだけは助けたい。民間人である彼に非はない。全ては、彼を巻き込んだ自分の責任だ。
 しかしジルは止まらなかった。このままではぶつかる。トリガーに指をかけ、息を吐く。上層部からは、最悪の場合機体を破壊しても構わないと言われている。それでも、一瞬彼女は躊躇した。
 ジルが彼女の横を通り過ぎたのはそのときだった。目の前でクルリと回転するキングを見ながら、彼女は呆然としていた。慌てて振り返るが、機体はもう既にかなり離れた位置にいた。
 撃てなかった。いや、撃つ気がなかったというべきだろう。リアは小さく舌打ちすると、マリベル=セラの機体へ通信を繋いだ。
「中尉、そちらの状況はどうなっていますか」
 前回と比べて敵機の数が多いわ。海上の防衛部隊は全員クビね。で、何? 用事があるのでしょう?」
 マリベルは話が早くて助かる。リアは彼女が苦手だったが、それでもその力を認めてはいた。
「キングが持ち出されました。おそらくロストクへ向かったと思われます」
「こんなときに問題増やして……。で、最悪の場合は破壊してもいいのよね?」
「いえ……」ジルの顔を頭に浮かべながら、リアは静かに答えた。「パイロットは保護してください」
「……なるほど、あの子が逃げたのね」
 マリベルは理解が早い。リアは否定しなかった。今はマリベルを信じるしかない。
「お願いします」
「了解。お嬢様のボーイフレンドだもの、殺しはしないわ。ちゃんとルークに連れ帰ってあげる」
「それはっ!」
 リアが叫んだときには、既に通信回線が切れていた。
 現状の戦力で、一番頼りになるのはマリベルだ。「光速」の名を冠するキングを止められるとしたら彼女しかいないと、リアは思った。しかし、彼女には任せていられない。
 ジルがルークに連れ戻されるということは、つまり彼の死を意味する。新型機を持ち出して脱走した彼に残された道は、銃殺以外にないだろう。
「大尉……」
 今は亡きレアルが生きていたら、おそらく自分は彼に頼り切っていたのだろう。レアルを殺し、ジルを巻き込んだのは自分であるにも関わらずだ。
「絶対に、ジルは守ってみせる」
 そのために、これが最期の戦いとなっても構わない。自分が代わりに銃殺されても構わない。
 リアは操縦桿を握る手に力を込める。前回の戦闘で痛めた左腕はまだ痛むが、そんなことは言っていられない。ジルの後を追い、ロストクへ向かった。
作品名:王の光 作家名:スチール