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王の光

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3.ホワイトナイト


 とてつもなく大きな音よりも、身体を襲う衝撃よりも、リア=ローランの意識を支配したのは、コクピットから見える光景だった。
「レアル大尉!」
 通信の先にいるアントニオ=レアルへ、彼女は声を張り上げる。アントニオが乗るヒネーテは、両腕に収納されていたシールドを展開したため破壊こそ免れた。しかしそれでも至近距離からバズーカを受けて、コクピットのアントニオが無事な保証はない。実際、庇われたクイーンオンブルのコクピットも強い衝撃に襲われたのだ。
「リア……無事か……」
「私は大丈夫です! 大尉は……」
 無事なのかと聞こうとしたリアだが、それ以上言葉を続けられなかった。アントニオの声から、彼がどのような状態であるかは想像できる。
「俺は大丈夫だ……。敵さんが自らやってきてくれたから、むしろラッキーだ。俺はここでこいつを止める。君は気にせず戻れ」
「そんな、無茶です! その状態では……」
「この程度、今まで何度も乗り越えてきたさ……。それとも君は、『ホワイトナイト』を信用できないのか?」
「それは……」
「大丈夫。俺に任せてくれよ、女王様」
 言いながらも、既にアントニオはマシンガンを敵機に向けて撃ち始める。リアたちに近づかせないことを最優先としたような撃ち方だ。そして、通信が切れた。
 動いてはいるものの、ヒネーテはボロボロの状態だ。シールドも大きく破損し、もう一度バズーカを至近距離で食らえば、今度こそ危ない。いくらアントニオがエースパイロットとして名を馳せようが、そんなことは意味をなさない。
 一度、横にいるジルヴェスター=クリューガーへ視線を送る。一般人である彼をこの場から遠ざけることが、自分に課せられた使命である。それは分かっている。だが、アントニオを置いてこの場を去るという選択はできない。まずは二人で敵機を撃退してから、基地へと戻るべきではないだろうか。どのみち、右腕しか使えない今の状態では、機体のスピードを上げることができない。ジルが指摘したように、この機体がスピードを上げるためには左側を操作しなければならないからだ。
 リアがマシンガンの弾を取り換え、銃口を構えようとしたとき、身体を何かに覆われた。それと同時に、彼女を覆ったものから声が発せられる。「ソフィー、どいてくれ」
「なっ……。一体何のつもり? ジルこそどいてちょうだい」
「さっき、俺が左腕になると言ったけど、訂正させてくれ。俺は君の両腕になる」
「ふざけないで、あなたにできるわけが……」
 彼女が口調を荒げた瞬間、機体が大きく揺れた。未だにアントニオが足止めをしてくれている敵機の攻撃を受けたわけではない。急に機体が動き出したことによる揺れだった。
「どっちに行けばいい。」
「ちょっと待ってよ! 私はここで戦うって……」
「甘えるなよ!」
 不意に、ジルが叫んだ。表情は見えないものの、その背中から推察できる。今まで見たこともないような怒りを彼から感じた。
 アントニオの乗るヒネーテが、ゆっくり遠ざかっていく。先ほど彼女が進もうとした道なので、ジルにも分かっているのだろう。だが、ここから先は非常に複雑なルートだ。
「レアル大尉を援護しなきゃいけないのよ」
「大尉はそんなこと言ってない」
「言ってなくても、少しでも力になれるなら私は戦うわ」
「いい加減気づいたらどうだ」静かな声で、諭すようにジルが続ける。「ソフィーは今、大尉の足手まといでしかないんだよ」
「そんなことっ」
「走れないこの機体は、敵からすれば格好の的だろ。それを庇いながら戦うことがどれほど大変なことか、俺よりも君の方が分かっているはずだろ?」
「でも、私は大尉のために!」
「大尉は! 大尉は、君に基地へ戻るよう頼んだ。本当に大尉のために行動するなら、何故その気持ちを汲まないんだ」
 返す言葉が見つからなかった。援護すると言っておきながら、自分にできることはせいぜい立ち止ってマシンガンを撃ち続けることくらいだろう。普段は遠くに身をひそめての狙撃を得意としているが、今はそれも構わない。アントニオが一人で戦った方が、まだ勝機があるのは目に見えている。
「でも、ジルに操縦なんてさせられないわ。初めてでいきなりザクールを操縦するなんて、できるわけがない」
「そうか?」スピードの調整方法が分かったのか、少しずつそれを上げながらジルが答える。「俺はいきなり操縦できた人を知ってるけどな」
 ジルの顔が見えなくて、すなわちジルに自分の顔が見られていなくて良かったと、心の底から思った。悔しさを必死に抑え込めながら、リアは彼の右手を覆った。
「右はサポートするわ。方向転換は左右のふっとペダルで、スピードは左のギアを押し出せば上がる」
「大丈夫、さっきまでソフィーの操縦を注意深く見てたから。一度見たら覚えるさ」
 そう言って、ジルは機体のスピードをさらに上げていく。しかし、機体は常に安定したままだ。普通ならば、支えの少ないこの機体を安定させながら走らせるのに長い時間を要する。リアでさえ、初めてのシミュレーターではここまでスピードを上げなかった。ましてや、これは実戦だ。
「次の交差点を左よ」
 それでも今は、ジルの操縦を信じるしかなかった。
作品名:王の光 作家名:スチール