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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「夢の続き」 第九章 由美の再婚

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「私だって一人でしたから、好きになりますよ。由美さんはとても美しいですから」
「あれ?もうのろけちゃってませんか?」
「そうかな?ハハハ・・・適わないね、貴史さんには」
「俺と洋子はそのうち結婚します。だからもしかして修司さんがお父さんになるかも知れませんね?」
「そういうことか・・・それは願ったり叶ったりだね。まだ早いけど」
「おばさんは、寂しがりやさんなので、よろしくお願いします」
「ほう、そんな事まで解っているんだ・・・すごいね君は。解りましたよ」

貴史の言葉に感心しながら修司は恭子と一緒に部屋に戻っていった。

洋子の機嫌はすっかりと直っていた。恭子との会話が弾んだことと、母の再婚が見えてきたからだ。
修司と再婚すれば自分は心置きなく貴史と暮らせる、そう思わせたのだ。母は修司との暮らしを楽しむだろうし、新しく出来た娘の恭子も
成長が楽しみになるだろうし、これで自分に子供が出来たら言うことのない幸せな暮らしが出来ると夢を膨らませていた。

いつしか母に遠慮することなく洋子は貴史のベッドにもぐりこんで朝まで寝ていた。目が覚めて二人の姿を見た由美は、洋子の機嫌が治まったことに
安心していた。そしてもう直ぐ自分も修司とこうなるのかも知れないと予感した。43歳の身体は女にとってまだまだ若かった。

広島から戻ってきた貴史と洋子は、その足で母親と別れて千鶴子の家に向かった。よもぎ饅頭を手にして玄関先で大きな声を出した。
「おばあちゃ〜ん、貴史だよ!」
「また大きな声を出して、本当にいけない子ね。さあ上がって。今日は彼女も一緒なのね」
「お邪魔します、おばあさま」
「そのおばあさまって言うのは止めてくれない?」
「では何とお呼びすれば・・・」
「千鶴子でいいよ」
「はい、では千鶴子さんと呼びます」

「これ饅頭だよ、土産。仏壇に飾っておくね」
「ええ、そうして。ありがとう」
「広島でね素晴らしい出会いがあったんだよ。佐々木さんって言う戦争体験者の方に会えて話が聞けたんだよ」
「そうかい、良かったね。なにを話してくれたの?」
「うん、どうして途中で止められなかったのかって言うことや、戦争をしないといけなかった理由なんかだよ」
「貴史はどう思ったの?」
「伊豆であった人と佐々木さんは少し考えが違ってた。これから先何人かに出会って話を聞いたとしても、多分全部違うと
思えるんだ。使命感で死んでいった人、死ぬしか選択肢が無かった人、無意味に殺された人、死にたくなかった人、みんな同じ戦争
体験者なんだよ。生き残った人も、英霊になった人もね」
「兵隊じゃない人だって同じよ。負けられないって必死だった人、もう止めて欲しいと願っていた人、諦めていた人、どうすることも
出来なくてもがいていた人、冷静に見ていた人、全部ね」
「その中でもね、共通の願いは二度と戦争は起こしてはならないって言うことなんだ。これは世界共通なんだよ。戦勝国も敗戦国もね」
「じゃあ、貴史は何を知りたくて続けているの?私の言った遺言は?」
「俺はまず事実関係を正確に知りたいと思うんだ。そして、日本人の反省する部分と、主張する部分を明確にしたい。その上で、おじいちゃんの
心境を探ってみるよ」
「ありがとう、しっかり勉強しなさいね。きっと役に立つから」

貴史は祖母の言葉に励まされて明日からの図書館通いが始まろうとしていた。

毎日のように図書館へ通っているうちに高校生が戦争の本ばかり読んでいることに気が引かれた男性がいた。
「感心だね、あなたのような若い方が戦争に関心があるだなんて」そう問いかけた。
「おじさん、経験者なんですか?」
「そうだよ。もう44年も経ってしまったがね。良く覚えているよ。失礼!名前は水野と言います」
「そうでしたか。俺は片山です。高校三年生です。死んだおじいちゃんの残した、俺は間違っていた、と言う言葉の真意を
探しているんです。それがおばちゃんからの遺言だから」
「間違っていた・・・ですか?私も同じように思っているんですよ。大東亜戦争はするべきじゃ無かったってね」
「満州事変から日中戦争に突入してゆく日本の軍部を止められなかったと聞いています」
「関東軍にいた司令官は反対だったんだ。アメリカから今以上の侵攻を中止する要求を呑むつもりだったのに、暴走した指揮官がいたんだ」
「石原莞爾ですね」
「良く知っているね。彼が勝手な行動をしなかったら日中戦争は泥沼化しなかった。南満州の統治を手放さずにアメリカと交渉出来たのに
、彼は天皇をも裏切った国賊だよ」
「日露戦争で日本は世界から注目され認められたのに、何が不満だったのでしょう?」
「ロシアはね負けたと思っていなかったから、戦争で我が軍が失った補償にも応じなかった。このことが軍関係者や国民には不満だったんだ」
「双方が上手く納まる線引きなんて無理だったんですね」
「そうだね。日清戦争のときのような戦利品が無かったから、不満がくすぶっていたんだね。遼東半島の占領も三国干渉の影響でご破算
になったけど、日露戦争で日本の実力を見せ付けたから世界はもう満州の占領や韓国の併合を認めていたんだ。力のある国だけが生き残れる
時代に入っていたからね。日本はアメリカと仲良くしていたから、上手く付き合ってゆけば良かったのに、帝国陸軍は最低だよ」

貴史には水野が戦争に負けた事を悔しがっているように受け取れた。それなりの地位にいた人だったのだろうか聞いてみた。
「水野さんは、階級は何だったのですか?」
「私は士官学校を卒業したから、陸軍中尉だったよ」
「小隊長と呼ばれるぐらいなのですか?」
「そうだよ。50人ぐらいの兵隊がいたよ。12年に召集されて満州から支那、最後はフィリピンだった。生き残ったのは数人だったから
大変な修羅場をくぐってきたことになる。よく命があったよ」
「12年召集ですか?それではおじいちゃんと同じです!片山真一郎と言います。知りませんか?フィリピンだったんです」
「知らないね。私は26師団だったから、東京じゃなかったんだよ」
「そうですか・・・すみません」
「謝ることなんて無いよ。こちらが申し訳ないと思うぐらいだ。200万以上の兵隊が死んだ。行方不明者や民間人を合わせるとその数は
300万を超えると言われているんだ。一人の男の暴走が招いた悲惨な歴史だよ。東条(英機)も許しがたいが、彼はむしろ戦争には反対していた。
軍人としての誇りが彼を暴走させたが、そのことは非難されても仕方ないよ。石原なんかは病気だったためにA級戦犯を逃れている。そんな事があっていいのかと
思ったよ」
「極東軍事裁判はいろいろと批判がありますね」
「その話は言い出したらきりが無いよ。私には、中国への侵攻を止めて南満州国を理想の国家にして、十分な体力をつけてから
アメリカと渡り合えばよかったと思うんだ。時期が早すぎたんだ。日露戦争だって準備不足はあった。伊藤は反対していたからね。
ロシア国内の革命運動が無かったら、逆転負けをしてたよ。世界と戦うなんてどだい無理な相談だったんだ」
「勝てない理由がはっきりしていたのに真珠湾攻撃をしたのは、やはり暴走なんですか?」