舞うが如く 第2章 10~12
(1)日義村の木曽義仲の菩提寺、
徳音寺の晩秋の夕暮れにつく
暮六の鐘の音は有名です
「遠近ハ聞も さためぬ山風の
さそふままなる 入相のかね」
(2)御嶽の暮雪
三岳・王滝・開田村にまたがる古くからの
信仰の山があります。
御嶽の五・六月頃の残雪が、
薄紫色の山肌に美しい模様を描き、情緒があります。
「志なのちや むかはぬ不二の おもかげを
ここぞみたけの ゆきの夕はえ」
(3)棧(掛橋)の朝霞(霧)
上松より四キロメートルの地点にある棧は、
初夏のころの木々の緑、木曽川の藍、
花崗岩のさまざまな形が朝もやの中にかすんで見える風景が
一番よいといわれれています。
「朝日影 にほえるみねは 猶晴れて
たによりかけむ きそのかけはし」
(4)寝覚めの夜雨
上松駅より約1.5キロメートル余り。
梅雨のころ、しぐれる寝覚の床一帯の風情は
落ち着いた趣があります。
「七とせの あとおや おもうたれか又
ねさめの床の 雨のよすがら」
(5)風越の晴嵐
上松駅より約四キロメートル。
緑の草山を夏風の吹き越していく様は、
雄大なながめです。
「吹くもまた あらしはよはき たえだえに
くもはれ残る 風越しの春」
(6)駒ヶ岳の夕照
木曽の各町村からながめられる夕日です。
秋から春まで、白雪の駒ヶ岳連邦が、夕日に映えて
赤紫色に照り輝くさまは幻想的な
美しさがあります。
「おしめ人 入日を山の 名にしおふ
ひきゆく駒の すくる光を」
(7)小野の瀑布
上松駅より約三キロメートル。
昔よりこの街道で知られた名所ですが、
今は残念ながら、
昔の面影はあまり残っていません。
「名にたてる 木曽の麻衣(あさきぬ) そめなして
雲井にさらせ たきのしら糸」
(8)与川(横川)の秋月
南木曽町十二兼より約四キロメートル。
坂本平からながめる仲秋の名月は、
木曽随一といわれています。
「秋ふかき 高根のしげみ わけ過て
よかわにすめる 月そさやけき」
「近藤さんは、
どっかりと座った大将格で、不動の岩だ。
かたや歳さんは、熱くなることがなく、
常に冷静に物事の処理に当たる、
不或の軍師そのものだ。
なにごとにつけ沈着冷静で、
あせった歳さんは見たことがない。」
「面白いはなしですね。」
「決して堅物ではないぞ、
この先の木曽八景で、かならず、歳さんが和歌を詠み始めるだろう。
文人で、おなごのような流れる筆で歌を詠む・・・
そういう人だ、歳さんは。
お前が書くのと、同じような文字でな。」
はっと、琴が目を見開きました。
琴の反応ぶりには意にも解せず、
沖田が目線を遠くにあげて、そこへ指をさしました。
なるほど、木曽の渓谷を懐手のまま、
じっとのぞきこむ、
土方の姿がそこにありました。
作品名:舞うが如く 第2章 10~12 作家名:落合順平