舞うが如く 第2章 7~9
実戦主義と勇猛を持って知られる、
試衛館の四天王の登場に、場内がざわつきはじめました。
全国より集まってきた、腕に覚えのある流石の剣客たちも、
思わず固唾をのんで見守ります。
「いや、しばし待たれよ。」
伝通院の本殿を背にした、一段高い桟敷から、
羽織を脱ぎながら、もう一人の剣士が立ち上がりました。
「天然理心流、試衛館4代目当主の、
近藤勇である。」
近藤が、沖田の肩を叩くと、
入れ替わるようにして、琴の正面にと歩み出ました。
精悍な眉と射るような目線には、凄味が潜んでいます、
分厚い胸板が屈強そのもので、太い二の腕は盛り上がり、
見るからに、野武士そのものという風貌でした。
「深山法神流、中沢良之助の弟にて、
次郎丸と申します。」
「なるほど、法神翁の天狗剣法か。
わしが知る限りでは、
中沢良之助殿には、琴と言う
小太刀と薙刀の名手がいると聞いたことはあるが、
もう一人、弟までおるとは知らなんだ、
さすがに、手ごわいはずである。」
「近藤先生に、
お願いがございます。
立会いは、真剣にてのただの一振り、
一撃のみにての勝負を
お願いいたします。」
場内が大きくどよめきます
良之助も、思わず立ち上がります。
近藤が太い眉尻をあげてほほ笑みます。
「真剣にて、
一撃のみにての打ちこみとは、面白い事をいう。
断っておくが、
天然理心流は常に真剣勝負につき
手加減は一切いたさぬぞ。」
「もとより、承知。」
場内がどよめき続ける中、
支度を整えた二人が、三間ほどの間合いを保ったまま、
真剣を抜き放って、お互いに睨み合いながら
静かに対峙をいたします。
作品名:舞うが如く 第2章 7~9 作家名:落合順平