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舞うが如く 第2章 1~3

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(3)琴の流儀

 1月が開けたばかりの上州・深山村は、
寒風が吹きすさぶ、1年のうちでも一番底冷えがする季節です。
南に面した山麓とはいえ、峰を吹き越してきた雪が、
窪地や日陰に降り積もったまま、
春まで残雪として凍てついてしまいます。

 河に沿って山道を登り、深山神社を越えると
生まれ生家の母屋と、その庭先に建つ道場が見えてきました。
その道場には、人だかりが見えます。

 良之助が下の娘の手を引いて、
その道場の人だかりに近寄ります
群衆の一人がそれと気づいて、あわてて駆け寄ってきました。

 「お帰りなさいませ、良之助おぼっちゃん!」

 良之助が生まれたころから
屋敷に住みこんでいる、独り者の茂助と言う下男です。
雑用をはじめ、空いた敷地では賄い用の野菜を育てている他、
道場の掃除や、父母の身の回りまで甲斐がしく世話をする、
たいへんに便利な下男です。

 「もう、おぼっちゃんはやめてくれ。
 家内も子供居ることだし、
 俺もいい歳になった。」

 「いえいえ、茂助から見れば、いくつになっても
 良之助さまは、おぼっちゃまのままです。
 時に・・・揃ってお帰りとは、お珍しいことでございます。
 何か、江戸でございましたか?」

 「あいかわらず、
 お前は如才がないな・・・
 訳は後ほど、ゆっくりと説明いたす。
 所で、道場の人だかりは、
 いつもの琴の、嫁取り試合の見学衆か?」
 
 「左様で。
 本日は、はるばる武州(埼玉県)秩父からお見えの
 お武家です。」

 「ほほう、
 遠いところからはるばると・・・
 武州の剣客とは、どれどれ。」