舞うが如く 第2章 1~3
下の娘を抱き上げると、肩に乗せて
良之助が人垣の背後から道場内をのぞき込みます。
そんなところから覗き見しなくても、という茂助を押し止めて
良之助が、高見の見物を決め込みました。
道場内では、白いはかま姿の琴が、
木刀を正眼に構えて立ちはだかっていました。
道場の中央では大上段に構えた武州の剣客が、
2間ほどの距離をとったまま、身動きもせずに対峙しています。
「なんだ、茂助。
琴が木刀を構えておるではないか・・・
これでは、勝負は闘う前から結果が見えておる。
どれ、母屋に寄って、
おばあさまのご機嫌でもうかがうとするか」
下の娘を肩車をしたまま、
後方に控えていた嫁と男の子を手招きしながら、
良之助が、母屋の方向へと歩き始めてしまいます。
あわてた茂助が後を追いかけました
「おぼっちゃま。
お相手は、さぞかし名のあるお武家と伺いました。
まんいち、お琴様がお負けになると、
お約束通り、お嫁に行くことに相成りますが・・・
大丈夫なのでしょうか。」
「琴が、薙刀(なぎなた)であれば、
本気の勝負であろう。
あの様子では、木刀で軽くあしらって終わりで有る。
武州の剣客も、深山のじゃじゃ馬娘が相手では、
歯が立たぬと見た。
案ずることはないぞ、茂助」
母屋の前に着くと、肩より下の娘を下ろし
上の男の子も傍らにと呼び寄せました。
「さて、
久し振りの我が生家だ。
これよりおばあさまにご挨拶を申し上げるが、
たぶん今頃は、琴を案じて仏壇の前だと思われるぞ。
お前たち、ちゃんと帰郷のご挨拶を申し上げるのだぞ。
わかっておろうのう」
はい、と答えた二人の子供が
元気よく母屋の奥へと消えていきました。
作品名:舞うが如く 第2章 1~3 作家名:落合順平