舞うが如く 第1章 8~12
(10)琴の薙刀(なぎなた)
法神から手渡された木刀を2度、3度と素振りをします。
琴を真正面から見降ろして、房吉が身構えました。
慎重に両足の位置を決めると、どっしりと腰を据え、
正眼から、斜め上段にとふりかぶります。
琴は、地面すれすれに薙刀を構えました、
やがて自身の背後にと、その刃先を引き込み始めます。
腰を落とし、さらに低い構えに変わりました
刃先が琴の背後に消えました。
「来るのか?」
房吉が、一息溜めた瞬間でした。
琴の発する短い気合とともに、
放たれた薙刀が、地面を一気に走ります。
前足を狙った一撃目がすり抜けると、緩むことなく斬り返されて
再び房吉の足元を襲います。
間合いを嫌った房吉が、一歩後方へと飛びのきました
その瞬間を狙いすませたように、琴の薙刀が喉元をめがけて突き出されます。
房吉は、さらに後方に下がります。
鋭く踏み込んだ琴が、追撃の2撃目、3撃目の切り込みを
息もつかずに繰り出しました。
「これは・・」
ぎりぎりの攻撃をしのいだ房吉が、呼吸を整えます。
後ろ脚に跳躍の力を存分に溜め、突きの構えを取った瞬間でした、
「それまで。」
法神の声とともに、
琴が繰り出し続けた薙刀を、納めました。
呼吸一つ乱していない琴が、手早くたすきを外します。
一つほほ笑んでから、房吉に向かって深く頭を下げました。
「さすがに、
無敗の剣士は裁きが違う。
どうだ房吉、琴に、素質はあるかのう?」
「おそれいりました。
思わず・・・
大人げもなく本気で切り込むところでした。
それにしても・・・」
「琴。
お客人は、喉が渇いたようである。
わしと客人のために、冷たい水を汲んできてはくれまいか。
小川でもよいが、
できれば冷たい清水が呑みたいのう。」
「かしこまりました。」
琴が竹筒を二つ抱えました。
真っ白い脚を惜しげもなくさらけだすと、
まっしぐらに、森の清水に向かって駆けだしました。
琴は、やっと16歳になったばかりです
深山村は、初夏でした。
作品名:舞うが如く 第1章 8~12 作家名:落合順平