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舞うが如く 第1章 5~7

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(6)江戸の騒動(前)

 3年余りにおよぶ武者修業の旅を終え、
房吉が深山村に帰ってくるのとほぼ同じころに、
江戸より客人がやってました。
江戸、木挽町の在住で幕府御用達の呉服商、手島源兵衛でした。

 法神流と房吉の武勇伝を聞き及んで、
ぜひ江戸に道場をと、はるばる法神翁を訪ねてきたのです。
話を聞いた法神は、是非もないと快諾をします、
もちろん当の房吉にも、異存はまったくありません。

 旅支度を解く暇もなく、
師匠との再会もそこそこにして、
房吉と栄蔵は呉服商とともに江戸へと向かいました。

 木挽町に開かれた、真新しい道場には
すでに多くの門弟たちが詰めかけていました。
いずれも、各地での房吉の武勇伝を聞き及んでのことです

 3年におよぶ全国での立会いのすべてに、ことごとく勝利して
天狗剣法とも別名を持つ法神流の、この無敗の若武者の噂は、
早くから江戸でも評判でした。

 時として二刀を操る房吉は、
剣聖・宮本武蔵の再来とも騒がれて、
噂が噂を呼び、木挽町の道場には人があふれました。

 さらに二つ目の道場が、赤坂に作られました。
このころになると、諸国の剣客が
かわるがわるに来ては房吉に試合を試みます。
しかし一人として勝ちを得る者が無く、
房吉の名前はさらに関東一円に轟き渡ります



 名声があがるにつれて、
房吉に嫉妬する輩たちも増えてまいりました。
文政11年7月11日の夜、房吉が赤坂の道場に行く途中のことでした。
「かかれ」の合図とともに、
突然10数人の男たちが抜刀したまま襲いかかってきました。


 大人数の襲撃にもたじろぐことなく、
房吉は両刀を抜いて、これに応戦します。

 道の中央から、自ら壁伝いにまで後退し、
左右と前方に敵を配し、切り込む間合いに近づいた相手にのみ目線を集中します。
態勢を低くに構えて、両刀は地面すれすれに構えました。