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舞うが如く 第1章 5~7

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(7)江戸の騒動(後)

 一撃目で狙うのは、敵の足元と左右の脇腹です
切り結べばそれだけ不利となり、不必要な動きは身体に隙を生むのです
間合いを詰めて忍び寄る者の足元をまず断ち斬って、
のけぞる瞬間には胴を突き抜くのです。
さらに次の一撃は、敵の喉元をめがけて突き出されます

 法神流の最大の特徴は、
瞬時に移動する身のこなしの早さです。
柔術が主体のため己の身体のすべてを使い、柳のようにしなやかに、
竹が弾けるように身を躍らせて、一気に敵との間合いを詰め、
瞬時に突いては、駆け抜けてしまいます。

 太刀を振りまわさないこの剣法は、
それぞれの急所にむかって、一直線に繰り出され、
無駄な動きをそぎ落として瞬時に敵を倒します

 競り合うこと数分、包囲網の一角が崩れました。
深い傷と致命的打撃を受けた数人が、包囲網から抜け落ちた結果です。
さらに数歩踏み込んだ房吉が、もう一人を切り伏せます。
襲撃者たちの足元に、ためらいが生じた瞬間でした

 退路が開けたその瞬間に、
房吉の身体が宙に舞い上がります。
深山で鍛えた足腰は、ふわりと土塀の上までその身体を運びます、
そのまま土塀の上を走り抜けてから、掘川にかかる小橋に舞い降りて、
さらに水面の小舟にむかって跳躍します。

 恐れをなした襲撃者たちは、
その場からは動かず、追撃のそぶりを見せません。
川下に向かう小舟の上から房吉が振り返った頃には、
傷を負った者たちを介護しつつ、撤収する様子しか見えませんでした。



 あっというまの出来事でした

 襲撃に加わった者のうち、胴部を切られて即死したものが3名、
脚に傷を負って身動きがならないものが5~6名、
その他の者にも、軽い刀傷が残されました。


 襲撃者たちの正体はわかりませんが、
いずれも房吉の成功をこころよく思わない輩であることだけは確かです。
これは、たまたま降りかかった火の粉のように見えますが、
この先に続く執拗な追撃の予告にすぎないのです。
 
 かすり傷一つ負わずにすんだ房吉ですが、
房吉と法神流の本当の災いは、
実はここから始まります。