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舞うが如く 第1章 1~4

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 懐から、細く編まれた赤い紐を取り出すと、
琴の濡れた髪を丁寧にひとつに束ねました。
さらに、真田の組み紐を両手にひろげると、
琴の両袖をからげてから、十字にタスキに掛けました。

 腰から自分の小太刀を抜くと、
それにクマよけの鈴を2個結びつけてから、
しっかりと琴の帯に差し込みました。

 こうして、ひととおりの支度ができあがります。
さらに、法神翁が琴の頭をひとなでしながら、
その耳元に何やら小声で囁きました。


 にっこりと笑ってうなづいた琴が、
脱兎のごとく、また坂道を駆け上り始めました
軽い鈴の音が、鎮守の森と、静かな境内に響きわたります。

 明治維新は、この先10年後での出来事です。
江戸湾・浦賀に4隻の黒船が現れてから、
明治維新に至るまでの、激動に満ちたこの時代のことを
人は『幕末』と呼んでいます。

 『天狗の剣』と異名をとる法神流に、
いまも名を残す男装の美剣士、琴は
この時代をたくましく、またしなやかに生きぬきます。
その生涯は実に波乱に富んだものでした。

 文久3年3月に予定されていた
14代将軍・徳川家茂の上洛の際の警護を目的とした
「浪士隊」に兄の良之助とともに、琴もくわわるのですが、
それはまだ、もうすこし琴が成長してからの出来事です。


 物語はまず、赤城山麓で発生した
天狗剣法・法神流の初代となった「房吉騒動」の物語へとすすみます。
その後に、幕末から明治維新の動乱期を、男装の美剣士として生き抜いた、
琴の生涯について、詳しく書きすすめていきたいと思います