ねえ、言ってよ
娘が帰って来た。
息子が帰って来た。
食事を始めた。
夫が帰って来た。
食事を温めなおして食べた。
「あのね。今日初給料が頂けました。それでささやかながらお祝いしたくて、お礼かな・・・
ケーキを買ったの。みんなで食べよ」
仁実は、ケーキ皿にそれぞれのケーキをのせた。
「好きなの食べて」
子どもたちは、仁実が思ったとおりに選んで食べ始めた。
残った2つのケーキを前に夫に聞いた。
「どちらにする?」
「こっち」
「はい」
仁実は夫の前にケーキを出しながらにこやかに話しかけた。
「ありがとう。仕事始めたの許してくれて」
「楽しいか?」
「はい」
「そう」
「それだけ?」
急にべらべらと話すとは思わないものの、この無反応の態度が悲しかった。
「ねえ、何か言って。仕事のことでも家事のことでも、いいとか悪いとか」
夫は、着替えたスエットのポケットからもぞもぞ何かを取り出した。
「はい」
「何?」
見れば、宝飾のケースと明らかにわかるが、少し拗ねて答えた。
「はい。15年ありがとう。10年目のSweet ten Diamond (スイートテンダイア)には買えなかったけど、まだ間に合ったかな」
「え?どうして?」
「どうしてって記念日だろ」
「いつ?誰の?私たち?違うー!」
正敏は、カレンダーに目をやり、焦った表情になった。