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ねえ、言ってよ

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テーブルの上にまだ干す前のタオルを置いた。
テーブルの上に広がっていた新聞とその日のチラシに何となく目を移しながらそろえていると折り込みチラシの中にほど近くの事業所の求人広告があった。
「パートタイム募集。事務と配送。時給800円。時間は9時から15時、えっとあー3時までね」
近所で、娘の帰ってくる時間よりは早い。
「私にもできるかなー」
みんな出かけてしまったひとりの部屋で仁実は口に出して考えた。
仁実は肩で息をひとつ吐き出し立ち上がった。
残りの洗濯物を干し上げ、部屋に掃除機をかけ、少し整えた身なりに着替えた。
化粧をした。いつもより時間をかけ、自然に明るく見える化粧だ。
考えていることよりも行動することに気持ちが向いている自分に驚きを感じながらも
それを止める意識は生まれなかった。
ショッピングセンターの自動撮影機で写真を写した。
文具売り場で履歴書を買った。
家に戻り、履歴書を書き始めた。子どもの書類を書くよりも緊張して書いた。
(肝心なこと忘れていた)
咳払いを数回して電話をかけた。
面接日の予定を聞いた。まずは履歴書を送ってくださいということだった。
書き上げた履歴書を見直し、写真を貼付し、封を閉じた。
(切手、切手・・・)
年賀状のナンバーで当たった切手シートを切り、ペロリと舐めて封筒に貼った。
(よし!)
家を飛び出すように出かけると、近所ではなく、郵便局の前のポストに投函した。
だからといって早く届くわけではないし、集配は別の支局の人がしている。
わかっていながらも、そうすることで落ち着いた。
その後、仁実は、まだ知られないように履歴書の残りも撮った写真も片付け、化粧も落とし、いつもと変わらず、家族の帰りを待っていた。
その日も家族のみんなはかわらない様子で一日を過ごしてきた。

作品名:ねえ、言ってよ 作家名:甜茶