小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ねえ、言ってよ

INDEX|4ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 


その日を境に正敏の言葉は、単語か一文になっていった。
(きっと忙しいのね)(疲れているんだわ)(考え事かな)(今だけよね)
先日の健康診断の結果も悪くない。メタボの心配はまだなさそうだ。
(仕事のこと?)(女のこと?まさか?!)(子どものこと?)(親のこと?)
仁実の頭の中は、この一ヶ月ほど、そんな言葉で埋め尽くされていった。
実家の母にそれらしく相談してみたが「はっきり聞けばいいのよ」と言われる。
だけど、今まで大事なことはもちろん、知るべきことも面白い出来事も夫は話してくれた。
言い換えるなら、話さないことは、気にする必要のないこととして今まで過ごしてきたのだった。

その朝もそうだった。
中学生の息子と小学校高学年の娘が出かけた後、いつのまにか仕度を整え、子どもが朝食に食べたスナックパンの残りとカフェオレを飲んだかと思えば、ガタンと玄関のドアが閉まる音。
洗濯機のところから、駆けるように飛び出したが、後ろ姿すら見えなかった。
急いでリビングに回り、カーテン越しに「いってらっしゃい」と呟くように声をかけた。
手に広げかけのタオルを二枚持ったまま、リビングの椅子に腰を下ろした。
「どうしちゃったのかな?私何かやらかしたのかな?わからないよー」
失敗したのなら教えてくれるし、困ったことがあると顔色でわかるのか相談にのってくれる。仕事が忙しくなってからは、仁実がゆっくり眠れるように寝室は別にしたが夫婦の関係が無いわけじゃない。この一ヶ月の間でもそれは変わらない。ただ言葉は普段と変わらず少ないが、むやみにしゃべるときでもない。

作品名:ねえ、言ってよ 作家名:甜茶