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ねえ、言ってよ

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「おかえりなさい。今あつあつのグラタンができあがったところなの。すぐ食べる?」
当然、「旨そうだな。いただきまーす」となるはず。
それなのに「あ、あとで」と部屋に入って行ったのだ。
きっと、着替えをするのね、と待ってはみても出てくる様子もなければ、気配さえ消されているように静まり返っている。
少し前に声をかけた息子がダイニングに現れた。
「ねえ、お父さん、どうしたのかな?ご飯よって声掛けてみて」
少し反抗期にはいった息子は、返事らしい言葉はなかったが、父親のいる部屋のドアをノックした。
「ご飯だってー」
戻って来た息子は、食卓の自分が座る場所に座った。
「何(なん)も返事なかった。食っていい?」
「あ、どうぞ」
「おにいちゃん、ちゃんとゲーム片付けてよ」と息子と3歳離れた妹が部屋へやってきた。
「負けたほうが、片付ける。決まり!」
「わぁグラタン。もう食べていいの?おとうさんは?」
「どうしたのかしらね」
三人で食卓を囲むことは珍しくはなかったが、夫が帰宅していて一緒に食べないことは
ほとんどないことだった。

作品名:ねえ、言ってよ 作家名:甜茶