それぞれのクリスマス・イヴ
本屋の前で、女は「ちょっとトイレに行ってくるから、この辺で立ち読みでもしてて」と言って男を置いて去った。
男は、立ち読みも飽きて辺りを見回した。クリスマス・イヴなので、CD販売店、ゲームショップ、玩具店は客でいっぱいだった。
女が帰ってくるのが遅いなあと、男が時計を見た。それからまた辺りを見回したが、まだ帰ってこない。男はまた本屋の中を見て歩いた。
男は肩に置かれた手で振り返った。女が笑顔で「さあ、ケーキ買って帰ろう」と言った。
「プレゼント、もういいの? まだ予算あまってるよ」と男は言ってから女が手にしている物を見た。
「はい、プレゼント」
女は、トイレではなくゲームショップに行って予約してあったゲームソフトを買っていたのだった。
「えっ、何?」
男がその大きさとビニール袋の店名ロゴから、中身を察したようだった。
「あ、あれね、サンキュー」
男は子供のような笑顔になり、それから女を見た。
「バイトだけど一応働いているから、これぐらいはね。だけど明日からまた倹約だぞ~」
ふざけたように女は言って、男の腕をとり歩き出した。
◇ ◇ ◇
私はニコニコしながら、精神感応した二人を見た。電車が減速している。やがて二人が外を見て駅を確認し、電車がとまると二人は出て行った。
作品名:それぞれのクリスマス・イヴ 作家名:伊達梁川