それぞれのクリスマス・イヴ
「それで、離婚してからお母さん再婚しなかったんだ」
「うん」と返事してから、女は「あ、これにしよう」とマンガのような姿形のネコを男に差し出した。
男がレジに持って行く、女はまだ名残惜しそうに他のぬいぐるみを見ていたが、決心したように男のそばに行った。
下げ袋に入ったヌイグルミを嬉しそうに受け取り、女は男の腕をとって混雑した通路を歩き出した。
「ここ、ちょっと見る」と言って女が男の歩みを停めた。
入ったのはアクセサリーショップだった。女は男の顔をみて、「まだ7千円ぐらい残っているよね」と念をおした。
「うん、それぐらいだね」男は物珍しそうに店内を見ている。あまりモテなかったと言ってたから女の子とこんな所に来るのは珍しいのだろう。
女が指輪を見ている。男が見るかぎり、どこがどう違うのかわからず選ぶのも大変だろうなあと思った。
やがて「う~ん、これがいいかなあ」と、指にはめて見せた。それは左手の薬指で、そういうことに疎い男でも分かっている。
男は、宝石店ではなくアクセサリーショップで指輪を選ぶ女に、申し訳なく思った。ちらっと見たその値段は2千円だった。
男が何か言おうとする前に、女は「はい、これに決めた」と断定的に言って、近くにいる店員を呼んだ。
「これ、包装はいいわ、今つけるから」と言った。男がえっと思いながら財布を出して、二人でレジの前に立った。
「いいの、そんなもんで」と男が言ったが、女は「ほら、可愛いでしょ」と嬉しそうに薬指にした指輪を見せて微笑んだ。それは女の微笑みを受けて輝いたように見えて、男も微笑んだ。
作品名:それぞれのクリスマス・イヴ 作家名:伊達梁川