それぞれのクリスマス・イヴ
少女と父親
私は降りて行ったあの二人のように、質素で誠実な結婚をしたいものだと思った。
そして降りる人が終わって乗り込んでくる人達を何気なく見ていた。とりとめない思念が雑踏のざわめきのように浮かんでは消えて行く。
今度は情念ではなく視覚によって私の興味を持つものが現れた。
4,5歳ぐらいの少女が父親と思われる男と一緒に入ってきて座席を探した。あいにく席は塞がっていたが、中年の女性が立ち上がって「どうぞ」と席を譲った。
「あ、すみません」男が礼を言う。女性は「いいえぇ、どうせ次の駅で降りますから」と言った。
男が娘に「座る?」と聞くと少女は頷いて座った。
男が「ありがとうは?」と少女を見ながら言うと、「ありがとう」と少し照れたように言った。席を譲った女性がにっこりと微笑んだ。
少女は首から下げているポーチを大事そうに抱えている。何か買ってもらったのだろうか。それにしては表情が固いような気がした。嬉しさと少しの不安が見えた。
私は好奇心にかられて、ゴメンネと言い訳のように心で言って、少女の思念にアクセスする。
そして父親の方も少し。
作品名:それぞれのクリスマス・イヴ 作家名:伊達梁川