それぞれのクリスマス・イヴ
若い男女
ドアの前の隅でぴったりと寄り添って立つ二人、ともに二十歳をちょっと過ぎたばかりのように見えた。男性が平均身長より低く、女性が大きいので二人並んで立っていると同じぐらいか、やや女性のほうが大きく見える。
幸せそうな二人の脳に侵入し、簡単にその時系列はまとめあげられた。
「予算は1万円しかないんだけど、一緒にみよう」
繁華街のショッピングセンターで男が言った。景気低迷のせいで男が勤めている小さな会社ではボーナスは微々たるものだった。今二人は安アパートで同棲していて、近い内に結婚しようという約束のために貯金もしている。
「えっ、1万円。充分よ、じゃあ、千円のもの10個でもいいんだ。ふふふ、嬉しい」
あまり化粧をしていないせいか女が笑うと高校生のようにも見える。
高校生に見えるのはその顔だけじゃなく、女が自分へのプレゼントに探しているのがぬいぐるみなので、余計にそう思える。
「母子家庭だったからね、母にあまりねだったことなかったの」
そう言いながら、女の目はいきいきと輝いてみえた。
「別れたお父さんから養育費とか貰ってなかったの」
男がウサギのぬいぐるみを持ち上げながら聞いた。
「父は自分が経営していた会社が倒産してね。お金なかったみたい」
女がネコのぬいぐるみをつかんでしばらく考えて、気に入らないのかまた別のものをとってみている。
「う~ん、クマとかウサギは可愛いのがあるんだけど、ネコはいいのが無いねえ」
男も、ネコのぬいぐるみを探してみながら、
「父さんが倒産かぁ」とシャレを言った。
「ふふふ、イマイチね」
女がそう言ってから「どさくさに愛人がいたことがばれてしまってねえ」と溜息をついた。
作品名:それぞれのクリスマス・イヴ 作家名:伊達梁川