【第十回・弐】おふくろさんよ
「寝にくそう?」
母ハルミが言うと京助が阿呆面で止まった
「仰向けに寝られないじゃない? 小さい時アンタいつも仰向けから寝始めてたからねぇ…よかったわね消えて」
母ハルミがにっこり笑った
「…そんだけ?;」
少し間を置いて京助が聞く
「他に何か…キモいとか思わなかったわけ?;」
「思わなかったわよ?」
京助の言葉に母ハルミが即答する
「こんなの生やしたのが自分の息子で…嫌…だとか…」
躊躇いがちにそして凄く小さな声で京助が言った
「アンタねぇ…そんなこと気にしてたの? 意外に繊細に出来てるのねぇ…」
少しきょとんとした後母ハルミが呆れ顔で言う
「悠ちゃんが緊ちゃん拾ってきてかるらん君やけんちゃん…タカちゃん矜羯羅君、慧喜ちゃんに…コマイヌ…ゼンゴの方がいいかしら」
母ハルミが名前をあげていく
「どこでやってきたのかすごい怪我してきたこともあったわねぇ…あと桜がココだけ咲いたとか」
思い出しながら母ハルミが言う
「すごいじゃない?」
そして最後にそう言った
「…は?;」
京助が少し間を置いて言った
「それってアンタじゃなきゃ体験できなかったことじゃない」
母ハルミが言う
「いや…まぁ…うん?;」
京助が首を捻りながらも返事をする
「よかったじゃない? 【栄野京助】だったから緊ちゃん達に会えたんでしょう?」
母ハルミが言うと京助がゆっくりと顔を上げた
「それとも【栄野京助】として生まれてきたくなかった?」
なんとなくどことなく元気のないような声で母ハルミが聞いた
「私と竜之助の子供に生まれてきたくなかったかしら? 折角私が腹痛めて生んだのに」
母ハルミが自分の腹を叩いた
「…すこし太ったわね…」
そしてボソっと付け足す
「私はアンタ産んでよかったと思うわよ? 今私アンタと悠ちゃんのおかげで凄く楽しいもの」
母ハルミが言う
「京助」
黙ったままだった京助を母ハルミが呼んだ
「きなさい」
ポンっと膝を叩いた母ハルミの右手には梵天付きの耳掻き棒があった
作品名:【第十回・弐】おふくろさんよ 作家名:島原あゆむ